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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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モリナスの契約書

目の前に置かれた契約書に己の血を持ってサインをする。
これでもう逃げることはできない。
「さぁ、契約成立だ」
男はにやりと笑った。

***

「兄さん!」

雪男は中庭を歩いている燐に声をかけた。
燐は雪男のことに気づいているだろうに、立ち止まることはない。
いらだちを隠せない雪男は燐の肩を掴んで立ち止まらせる。

「ようやく会えたのに・・・なんで無視するんだよ!」

燐はゆっくりと振り返った。青い瞳が睨みつけている。

「触るな」

燐の冷たい言葉を受けて、雪男も睨み返した。お互いに話す言葉は少ない。
二人は制服ではなく祓魔師のコートを羽織っている。
このコートを羽織った瞬間から、二人の道は大きく別れてしまっていた。


祓魔師試験に合格すると同時に、燐は騎士團本部に呼び出された。
きっとまた監視を増やされるなり、拘束されるのだろうと踏んでいたのだが、
騎士團の提案は燐の度肝を抜くものだった。奥から出てきた男が燐に手を振って答える。

「やっほ~奥村燐君」
「え・・・誰・・・」
「はじめましての方がよかった?僕はルーイン・ライト。
ライトニングって呼んでもいいよ。今日から君は僕の使い魔だ。
僕は君のご主人様になるからそのつもりでよろしく」

そう言って男は握手をしてきた。燐はただただ男の不適な表情を見つめているしかない。
え、使い魔って。あれか、しえみや出雲が使役しているあいつらみたいな。俺が?

「お、俺が!??だって祓魔師の試験に合格して・・・」
「うん、だから手元に置いて監視しようかって方針になってさ。
だから君はもう日本にも帰れません。残念でした」
「ええええ!?」

ライトニングは燐の首根っこを掴んでそのまま別室へと連れていった。燐は部屋の中央に投げ込まれる。
扉は無情にも閉められて、鍵をかけられた。暗い部屋に見知らぬ男と二人きり。
警戒心をむき出しにした燐は、全身から青い炎を吹き出した。ライトニングはその炎を興味深そうに眺める。

「うわぁ、実際に見ると綺麗だねぇ」
「どういうことなんだよ!こっから出せ!」

燐が怒鳴ると、部屋が呼応するように揺れる。魔神の落胤の力は伊達ではないらしい。
ライトニングは素早く印を組むと、床に手をついた。その場所からオレンジ色の光が宿り部屋全体を覆っていく。
光は線となり、糸のように絡まりあう。そのまま燐の周囲を取り囲み、編まれた糸は檻を形作った。
それだけではない。ライトニングが指を鳴らすと、暗闇から悪魔が出現した。無数の瞳がこちらを眺めている。
時折、若君様。という言葉が聞こえてくる。
燐がライトニングを睨みつけてもライトニングは飄々とした態度を崩さない。
それどころか携帯電話を取り出してどこかに電話を始めた。

「南十字男子修道院は、君のかつての家だったよね?」

燐の鼓動がどくんと脈打つ。この男は何を言っているのだろうか。
ライトニングは燐の不安を煽るように続ける。

「正十字学園の端にある祓魔屋」
「京都の虎屋」
「ああ、旧男子寮もそうだね」

しえみや勝呂達、そして雪男の居場所だ。この男は燐の大切な人たちの居所を知っている。
これは明らかな脅しだった。暗闇にいた悪魔達が蠢いている。

「僕には多くの使い魔がいてね、各地に諜報に向かわせたりするのも仕事の一つさ。
そして命令一つで彼らは殺しだって行えるよ。だって悪魔だからね」

ライトニングが携帯を切り、指で首を切る動作をした。燐の大切なもの達の命はこの男が握っている。
燐は緊張で冷や汗をかいた。炎の勢いが収まっていく。
このまま抵抗して、ライトニングを倒すことも燐の力では恐らく不可能ではない。
でも、それをすることで皆が危険に晒される。燐の周囲にあったオレンジ色の檻が揺らめいていた。
ここに来る前に雪男には気をつけろと言われていた。でも、どうすることもできない。
一人日本に残すことになった家族に心の中で謝った。
ごめんな。でも、お前等を見捨てることなんてできない。俺には無理だ。ライトニングは笑っている。


「奥村燐、僕の使い魔になれ」


悪魔を縛るには、言葉と力が必要だ。
燐を縛るためにライトニングは策略を巡らせた。
燐は抵抗することができず、そのままうなずく。
すると、オレンジ色の檻が輪に変化し、燐の首を縛りつけた。

「う、ああああああ!!!」

首を押さえてうずくまる。燐が床でのたうち回っていると
ライトニングが指を鳴らした。嘘みたいに首の痛みが無くなる。代わりに、冷たい感触が一つ。

「僕のものだっていう、証拠だよ」

冷たい銀色の枷と、小さな南京錠に拘束された首元。
この日、燐はライトニングの使い魔になった。
そして、逃れられない日常が始まったのだ。

***

「おい奥村燐、飯はまだか」
「うっせーな今やってるよ!!」

燐は野営の森の中でご飯の支度をしていた。近くの切り株に腰掛けたアーサーはすました顔でご飯を所望している。
最初のうちは燐が騎士團本部にいることに抵抗感を示していたのだが、
参謀であるライトニングの使い魔であるならイヤでも一緒にいることが多くなる。
そのうちに燐の料理を口にしだして、今では強請るようにもなった。
なんだかんだと一緒にいるようになってアーサーとは距離間が縮まったのだが、
ライトニングとの関係は最初の頃と変わらない。燐の首を縛る枷は主従関係の証だ。
命令を受けると逆らえないことがイヤだ。そこに燐の意志がないことが。

アーサーにできあがったカレーを渡すと、彼は素直にそれを口にしていた。
アーサーは純粋培養の賜物なのか、食事の時に話はしない。しばらくは静かだろう。

燐は空を見上げた。星空が広がっている。この星を雪男や皆も見ているのだろうか。
試験に合格したことで、一番喜んでくれたのは雪男だった。
今まで苦労をかけた分、これからは雪男に心配をかけないようにしようと
思っていた矢先の出来事だったのだ。

あれから半年はたっている。ライトニングの策略なのか騎士團の思惑なのかは知らないが、
電話はおろか一度も会ってすらいない。大丈夫なのかな。
あいつ、俺の飯で生きてきたようなもんだから、腹空かせてないといいけど。
燐はため息をつく。背後から声がかかった。

「ため息などつくな、任務中だぞ」
「飯食ってた奴に言われたくねーよ」

アーサーは燐から数歩離れた場所にいた。
以前より近くなったとはいえ、やはり悪魔と人間という立ち位置に変わりはないらしい。
アーサーはぼそりと呟いた。

「ある疑惑が浮上している」

燐はアーサーの方を見た。アーサーは淡々と言葉を告げる。
燐に話すということは、使い魔としての任務の前触れと考えていいだろう。

「騎士團内にイルミナティのスパイがいることは知っているな」
「・・・ああ」

確か、シュラが日本支部のスパイを洗い出す任務に当たっていたはずだ。
燐は首を傾げる。ヴァチカンに二名。日本支部に一名。そのスパイがなんだというのだろうか。

「新たに情報が入った。お前はイルミナティのスパイを炙りだす任務についてもらう」
「場所はどこだよ。海外だったら、俺会話すらできねぇんだけど」
「鹿児島支部だ」
「九州か・・・え、九州に支部あんの?」
「いやない」
「・・・冗談がわかりにくい」
「そうか?」

アーサーにとってはスマートな冗談だったらしい。意味がわからない会話はスルーするに限る。

「場所は日本支部だ」

アーサーの言葉に燐は耳を疑った。あれだけ帰りたかった場所に行けるなんて。
でも次の言葉に燐は絶望に突き落とされる。

「お前の弟・・・奥村雪男にイルミナティのスパイ容疑がかかっている」

アーサーにしては歯切れの悪い言い方だった。
燐の動揺した様子が不憫に思えたからかもしれない。

***

燐はライトニングの命を受けて、日本支部に戻ってきた。
試験に合格して以降戻れていないので、懐かしい。生まれ育った国だからだろうか。
日本の空気はやはり体に馴染む。

中庭を散策しながら、燐は物思いに耽っていた。
アーサーから聞いた雪男の疑惑。あの優秀で優しい弟に限ってそんなことはしないと信じていた。
だってイルミナティは藤堂がいる組織だ。藤堂は勝呂の家を。明蛇宗の皆を苦しめた張本人じゃないか。
そんな男と雪男が連むはずなどない。

燐は首元に手をかける。
冷たい感触だ。この枷がはめられて以降、燐はタートルネックで首を隠すようになった。
使い魔になったことは事実だが、それを人に見られたくなかった。
本部にいた頃なら知り合いは少なかったので余り気にしないで済んだ。
でも日本には知り合いが多い。それに何より雪男に見られたくなかった。

あいつはこれを見たらどう思うだろうか。

そう考えていると、背後から声がかかった。懐かしい声だった。

「兄さん!」

ああ、雪男だ。燐は立ち止まりそうになる。でもそのまま歩みを止めることはない。
燐にはライトニングから命じられていることがあった。奥村雪男の身辺を探ること。
しかし、必要以上に彼に立ち入ってはいけないこと。

破ればどうなるか。燐にはわかっていた。
でも正反対に見える命令をどう解釈すれば良いものか。そこが悩むところだ。
雪男は燐の肩を掴んで立ち止まらせる。

「ようやく会えたのに・・・なんで無視するんだよ!」

燐はゆっくりと振り返った。青い瞳が睨みつけている。

「触るな」

近づくと、お前に迷惑がかかる。
たぶん今もどこかで別の使い魔が燐達を監視しているはずなんだ。

燐の冷たい言葉を受けて、雪男も睨み返した。お互いに話す言葉は少ない。
二人は制服ではなく祓魔師のコートを羽織っている。
このコートを羽織った瞬間から、二人の道は大きく別れてしまっていた。
なんでこんなことになったんだろう。燐にはわからなかった。

「兄さん・・・話したいことがある。あのライトニングって男の話だ。
兄さんを使い魔に拘束しているあいつは―――」

雪男が燐の手を掴んで話を始めた。あの男に契約書を書かされたことを。
燐は初耳だった。燐が大人しくしていれば、雪男達には何もしないと信じていたのに。

「僕は大丈夫だよ、それよりも」

燐が動揺していると、嫌な気配が中庭に満ちていた。何か来る。
燐は雪男の手を掴んで自分の元に引き寄せた。
今まで雪男がいた場所に大穴が開く。この気配。上級悪魔か。

「雪男!下がってろ!」

燐は倶利伽羅を抜いて、雪男を背後に庇った。穴に広がる暗闇の中から、悪魔が出てきた。
黒く醜悪な姿だ。燐達に向かって襲いかかってきた。燐は黒い腕を刃で受け止めて、軌道を逸らし、
がら空きになった懐に潜り込んだ。そのまま心臓部分に倶利伽羅を突き立てる。
刃を辿って炎をありったけ送り込んだ。

「終わりだ!」

悪魔の断末魔の叫びが響く。青い炎は神の炎だ。全てを焼き付くす炎の前では、どんなものでも屈してしまう。
燐が雪男に駆け寄った。
燐が側にいたからいいものの、あの悪魔相手だと雪男一人では怪我をしていたかもしれない。

俯いている雪男の顔を燐はのぞき込んだ。雪男は笑っていた。
燐を自分の腕に閉じこめる。ようやく感じることのできる兄の体温に雪男は心の底から安心した。

ああ、兄が自分の側にいる。

対して燐は雪男から離れなければと思っていた。
ライトニングから必要以上に立ち入るなと命じられていたのだ。その証拠に燐の首にはめられた枷が燐を苛む。

「雪・・・男、離してくれッ」
「ああ契約の枷か、忌々しいね」

雪男の指が枷の中心にある小さな南京錠をなぞった。
燐の体に激痛が走る。枷を外そうとしたり、主人の命令に背けば罰が下る仕組みだ。
苦しむ燐を腕に閉じこめて、雪男は南京錠にある鍵を近づけた。

「今、自由にしてあげるからね」
「いや、だッ!うあああああああ!!!」

鍵穴に入ってくる鍵には不穏な気配がした。
正式な手順を踏んでいない枷の解錠は使い魔にとっては苦しみでしかない。
かちん。中庭にオレンジ色の光が広がる。
光が収束すると、燐が雪男の腕の中に倒れ込んでいた。雪男は燐を抱えると、そのまま歩き出す。

「モリナスの悪魔を殺すなんて、兄さんはやっぱりすごいね」

契約を破った者を殺す悪魔。契約者が悪魔を殺すことはどんなことをしても不可能だ。
しかし、青い炎というイレギュラーならば話は別。雪男はわざと燐に話をすることで、悪魔を呼び寄せた。
もちろん、あれがモリナスの契約悪魔であることなどは誤魔化して伝えたので
燐はまんまと雪男に騙された訳だ。
中庭を抜けると、黒い陰があった。陰から男の声が聞こえる。

「願いは叶ったかい?」
「ええ、僕たちは自由だ」

陰から出てきた男は、藤堂だった。



目の前に置かれた契約書に己の血を持ってサインをする。
これでもう逃げることはできない。

「さぁ、契約成立だ」

男はにやりと笑った。
兄である燐は、試験に合格すると同時にヴァチカンに拉致されてしまった。
あげくに、使い魔としての契約を無理矢理に結ばされて、
人としての扱いを受けていないという情報を聞かされた。
兄を守ることができなかったという自責の念に駆られた雪男は、心が悪に染まっていく自分に気づく。

「お兄さんを助けたいかい?」

悪魔の囁きは、雪男の背中を押した。雪男は兄を助けるために悪魔と手を組んだのだ。



「イルミナティは君たち兄弟を歓迎するよ」
騎士團から離れた遠いところへ。藤堂は二人を導いていく。
雪男は腕の中の燐に話しかける。これからはずっと一緒だよ。と。燐の意識は未だ覚めなかった。


***


「いたた・・・してやられたなぁ」

血を流す自身の腕を見ながら、ライトニングは呟いた。
契約を破られた代償はライトニングにも返ってくる。
もちろん、詠唱、召喚儀式のスペシャリストとしてはその代償を軽くする方法も心得ているので、
この程度で済んでいる。本来ならば、死んでいてもおかしくはない。

「だが計画通りだ」

ライトニングはわかっていた。燐をおとりに使えば、雪男が動き、イルミナティが出てくるだろうことも。
だから燐をあえてあの場に向かわせた。燐には命令以外で伝えたことがある。
無事に戻ればそれでいい。
もしイルミナティに連れていかれたなら、こちらへ情報を流すこと。
つまり、イルミナティ内部に入り込んだ燐にスパイをやらせるということだ。
誰も正直な彼がそんなことを考えているなど思いもしないだろう。
燐も最初は抵抗感を示していたが、弟を救う為だと言えば了承した。
あの兄弟の絆は深い。だからお互いを救うためならばどんなことでもするだろう。


「無事に帰ってくることを祈っているよ」


ライトニングも、側に居た使い魔に情がわかなかったわけではない。
それでも彼は飄々とした態度を崩すことはなかった。

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