青祓のネタ庫
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塾が終わり寮に戻ると、雪男が薬を調合しているところだった。
ごりごりごりとすり鉢で何かを擦っているが、その様子が鬼気迫る様子だったので、なんとなく声がかけずらい。
「おかえり」
「お、おう。ただいま」
後ろを向いたままボソッと言われたので、危うく聞き逃すところだった。
そのまま荷物を床に置いて、ベットの上に座る。お互い無言だ。
髪が青くなった日から弟の反応がにぶいというか、ギスギスしている。
部屋に帰っても以前のようにくつろげない。
「あ、あのさ、この前俺が悪魔に捕まった時、助けてくれたのって雪男だろ?」
「まぁね、銃で打ち抜いたんだ」
「助かったよ、ありがとな」
「別に…仕事だし、当然だよ」
「……」
「……」
気まずい。
「ちょっと勝呂達の部屋行ってくる」
「待って兄さん」
雪男はすり鉢の中身を薄緑色の液体の入った瓶に入れる。
どうやらミストスプレーみたいだ。
それをいきなり燐の頭に吹きかけた。
「くっさ!!何コレ青汁みてぇ!!」
目に入った!とのた打ち回れば、雪男は冷たく「失敗か」と呟いてまた席に着いた。
薬学書を開いてそこにバツ印を付け加えている。
同時に開かれた悪魔辞典には、任務の時に戦った悪魔「クレイジーアップル」が記されていた。
強いて言うならあなた達が兄弟で双子だから
メフィストのやつ、教えてくれてもいいだろう。
こんな風になったのはすべて髪が青く染まってからだ。
だが、この魔障を受けたのだって不可抗力だ。
自分は悪くないはずなのになんでこんな目にあうのだろう。
「お前、最近変だぞ…」
目頭を押さえながら、雪男に訴えた。
雪男は変だ。深夜遅くにたたき起こされて、変な薬を飲まされたり。
風呂場にいきなり乱入してきて思いっきり頭を洗われたり。
「変なのは兄さんのほうだ」
それにそっけない。
「お前さ、何焦ってるんだよ」
それは燐の感じた正直な気持ちだった。
この一週間、雪男は何かに焦っている。
「だって…」
椅子に座ったまま、雪男はうな垂れた。
「兄さんが、兄さんじゃなくなったみたいで…」
その声は不安そのもの。
そうか、と燐は気づいた。急に他人行儀みたいになったのは。
「青い髪になったとき、兄弟じゃないみたいだって言われたからか?」
二人は性格は似ても似つかないが、外見は兄弟なのでそっくりだ。
顔が似ていないといわれたことは記憶にない。
だが、最近になって二人の間に決定的な溝ができた。
燐の悪魔としての覚醒だ。
人間と悪魔。兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
ずっと雪男は兄との違いを感じていた。
そんな中、唯一の共通点である黒髪に青い瞳という外見まで突然変わってしまった。
兄弟なのに違う。双子なのに違う。家族なのに違う。
目まぐるしく変わっていく燐の姿。変わらない自分。
だからこそ、雪男は必死に燐を元に戻す方法を探していた。
雪男はこれ以上燐と自分の間に差異を作りたくなかったのだ。
燐は雪男の頭をぽんっと撫でた。
「俺は変わってねーよ雪男、大丈夫だ」
大丈夫といって頭をなでる。小さな頃から続く燐の慰め方だ。
触れる手は暖かい。
俯いていた顔を上げれば青い髪と青い瞳。
いつもと違う、でもいつもと同じ兄の姿がそこにはあった。
「ごめんね兄さん」
視線が交差する。
自然な動作だった。謝罪と親愛が篭もった触れ合うだけのくちづけ。
その瞬間、ボフンという音と共に燐の髪が元の黒髪に戻った。
「おお!?」
「戻った!」
見て、と雪男は燐に鏡を見せる。
「よ、よかったー、これでもう食堂でにらまれなくて済む!!」
燐は嬉しそうにはしゃいだ。雪男は突然のことに驚いてずれた眼鏡を直して、考えた。
(もしかして、さっきのが魔障の治癒方法だったのか?)
悪魔の名は「クレイジーアップル」
狂った林檎。
おとぎ話で白雪姫が食べたとされる林檎だ。
白雪姫の呪いを解く方法は、物語にも記されている。
魔障を受けた時、燐は眠っていた。
本来なら、クレイジーアップルの魔障を受けた者は白雪姫のように深い眠りにつく。
しかし魔神の落胤である燐は魔障の類を受け付けにくいという性質があったため、眠りにつく
ことはなかったのだ。だが強力な魔障をすべて弾くことはできなかった。
魔障を受けているのに、完全に魔障に侵されない。
そんな変わった状態を現したのが、青い髪だった。
ヒントはあったのだ。
「なるほど、厄介な体質だね兄さん」
「何納得してんだよ」
「ううん、でも元に戻ってよかった」
目の前には自分と同じ。以前と同じ、黒髪に青い瞳の兄の姿がいた。
「やっぱりこっちのが安心するな」
「あ、でもこの魔障の解き方って皆には言いにくいね」
「……恥ずかしくなってきた」
顔を紅くする燐を見て、雪男は自分の日常が戻ってきたことを感じた。
悪魔辞典の「クレイジーアップル」の項目を開く。
口頭では言いにくいし、「クレイジーアップル」の魔障の解き方はメモだけで十分だろう。
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