青祓のネタ庫
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暗闇の中で、リュウがこちらに向かって歩いてくる足音だけが不気味に響いていた。
辺りを見回すが、見たこともない場所だ。燐は警戒した。自分は先程まで部屋で宿題をしていたはずだ。
雪男がポットにお湯を入れに席を外したので、自分もトイレに行こうと席を立った。
ドアノブを回した所までは覚えているのだが。燐は起き上がろうとした。
しかし、体に何かが巻き付いていることに気づく。
見れば、体に一本の長い呪符が巻き付いている。
首の方から、足元まで蛇の様に螺旋状に巻かれていた。
なんだこれは。足音が止まる。燐は目の前にいるリュウを睨み付けた。
「なんの真似だ」
こんな所に閉じ込められて、拘束される謂れはない。
リュウは棍を燐に向けている。
「それはこちらの台詞だ。ここはどこだ、答えろ」
「え?」
「・・・何?」
二人して、顔を見合わせた。会話が噛み合っていない。
燐は呪符の巻き付いた手をリュウに伸ばす。リュウは無言で首を傾げた。
「何の真似だ」
「起きれない、悪いけど起こしてくれ」
呪符の効能だろうか、燐の体にはまるで力が入らなかった。
リュウはしばらく考えてから、燐の手を取って体を起こしてやった。
手を離すと、燐が人形のように仰向けに倒れる。リュウは関心した。
「面白い」
「遊ぶな!」
燐が怒ると、今度はちゃんと背もたれがある場所に置かれる。リュウはその隣りに腰かけた。
「お前のせいではないようだな」
リュウは燐より先に目を覚ましたらしく、もう辺りを散策したようだ。
この建物は、円状の床と天井まで届く高い窓が特徴的だった。
天井は鉛筆の先のように尖っている。
どんな仕掛けなのかはわからないが、屋根があるはずなのに空が見える。
空は暗く、星が瞬いている。もう夜なのか。燐は少し不安になった。
雪男に何も言わないままここにいる。多分心配しているだろうな。
ため息が一つ出る。帰ったら怒られそうだ。いや、それよりも帰れるのだろうか。
鉛筆の先から柄の部分までをカットしたような建物。
恐らくは何処かの塔の一室だろうとリュウは言った。
床には、燐達の外に山のような荷物が積まれている箇所があった。
燐が凭れているのも、その荷物の一部らしい。燐は近くにあるものを手に取った。
軽い動作くらいなら、呪符に巻かれていても出来るようだ。
燐は手の中にあるものを見てぎょっとする。暗闇の中にあってもわかる異様な形。
「なんだそれは、形から想像するに・・・ジャパニーズこけしというものか」
「違ぇ!」
「暗闇でよく見えないが。電動でぐねぐねと動くようだ、日本の工芸品はハイテクだな」
にやにやしながらリュウがこちらを見ている。こいつ、絶対わかってやってるだろ。
リュウは見た目は若いが、燐の丁度倍生きている三十代の男だ。
それなりの経験はあるのだろう。対して燐はまだ十代の思春期真っ盛りだ。
知識としては知っているものの、そういうおもちゃを手に取るなど初めてである。
くそ、なんだこれ俺のじゃないのに恥ずかしい。
燐は乱暴に手の中にあったブツを放り投げた。
離れた壁に当たって落ちる、かしゃんという音がむなしい。
リュウは燐の背後に積み重ねられているものに手を伸ばす。
ぽいぽいと目の前に荷物が放り投げられる。
それらは、見たこともないものばかりだった。
銀時計、ネックレス、宝石。剣、絵画。かと思えばおもちゃやフィギュア。
お菓子のパッケージなんてものもある。
統一性がない。燐は首を傾げる。なんだこの場所は。
リュウはひとしきり漁り終えると、ため息をついた。
「呪いや聖具の類のものもあれば、ただのガラクタもある。
ひとつ言えるとしたら、珍しい。ということか・・・」
「めずらしい?」
「そうだ、そもそもお前の体に巻き付いている呪符もかなり珍しいぞ」
「え、これお前がやったんじゃないの?」
「それをして俺に何の得がある」
「えええええ!?」
てっきりリュウがやったものとばかり思っていた。
リュウが気が付いた時には、すでに燐の体に巻き付いていたらしい。
燐の抵抗を封じるようなことをして、得をするものがいるということ。
そいつが真の犯人だ。
リュウは燐の体に巻き付いている呪符に手をかける。
何回か触って、概要は把握したようだ。
「これはおそらく、捕まえた物の状態を保つためのものだな。
生け捕り、飼い殺し。そんな術だ。
大体の退魔の術が消滅を主としている分珍しいな」
「これ取れるか?」
「それをして俺に何の得がある」
リュウは燐を放置しようとした。燐は慌てて抗議する。
こんな場所に置き去りとか勘弁してほしい。
「ひでぇ!」
「冗談だ」
そもそもリュウも閉じ込められているので、どこにも行けない。
棍でぐりぐりと突かれた。
こいつ、遊んでる。動けない悪魔を弄んで楽しいか。ちくしょう。
「笑えねぇよ!」
炎が出せたら燃えていただろうが、あいにく炎もある程度封じ込める代物らしい。
リュウは札を燐の体から剥がしていく。
剥がれた部分から動けるようになっていく。そして、嫌な予感がした。
燐はここに連れて来られる前、そう。トイレに行こうとしていたのだ。
この呪符は捕まえた物の状態を保つためのものらしい。
燐は周囲をぐるりと見回した。ここは塔の一室のようだ。
当然人が生活できるような施設はないと考えていい。
まさか。まさか。
燐はどっと冷や汗が出た。咄嗟にリュウの呪符を剥がす手を止めるよう叫んだ。
「なんだどうした?」
「もしかしたら、もしかするけど。ここ、トイレないよな?」
「ないな」
「俺、トイレに行こうとしてここに来たんだけど・・・」
リュウも気づいたようだ。この呪符を巻いているからこそ何も感じていないが、
外した途端に激しい尿意に襲われるかもしれない。
そうなれば終わりだ。人として十五年生きてきたプライドがずたずたである。
リュウは燐の青い顔を見ると、一旦止めていた手を再び動かし出した。
燐はついにキレた。
「止めろっつってんだろ!!!漏らしたらどうすんだよ!!」
トイレのことなので、必死である。
リュウは首を傾げた。
「冗談だ?」
「なんで疑問系なんだよ!やめろ!ちくしょう!お前もトイレ行きたくなればいいのに!」
「甘いな魔神の落胤。俺ほどのイケメンになれば汗も排泄もコントロール可能だ」
「マジかよ!?」
「サインなら後にしてくれ」
「いらねぇよ!」
リュウはさわやかな笑顔で答えた。でも、心底悪い顔だった。
「ちなみに全て冗談だ」
「笑えねぇよ!!」
再度呪符を巻かれた燐は、ようやく落ち着くことができた。
リュウもすることがなかった鬱憤を燐をからかうことで晴らせたようだ。
二人で床に寝そべった。天井は仕組みはわからないが空が見えるようにできている。
夜の星を二人で眺めることになろうとは、想像もしていなかった。
冷たい冬の空は、星がよく見える。この部屋の中はとても冷えた。
燐の格好は、部屋着だけだ。それでも耐えられているのは、この呪符のおかげなのかもしれない。
捕えたものを、そのままの姿で保存する術。どんな悪趣味な輩が作り出したのだろうか。
リュウは祓魔師の服を着ているのである程度は耐えられるだろう。
「寒くないか?」
燐が問いかけた。
「大丈夫だ」
それは本当だった。燐はしばらく黙ってから、口を開いた。
「あいつ、寒く無かったかな」
あいつ、とは恐らくうさ麻呂のことだろうとリュウは思った。
空には雪がちらついている。うさ麻呂のことを覚えているのは、リュウと燐くらいしかいない。
メフィストも覚えていそうだが、感傷に浸るような性格はしていないだろう。メフィストは悪魔だ。
悪魔は自分の快楽に忠実に生きている。欲しいと思えばその通りに動くし、我慢など基本的にしない。
感情の動きは人とは違う。ルールの違う生き物だとリュウは思っていた。
感傷に浸る悪魔とは、珍しいな。とリュウは燐を見つめた。
リュウは思い出を掘り起こす。幼い自分に唯一寄り添ってくれていた友達。
彼の最期は自分がもたらした。彼の死は、リュウが背負っていくものだ。
そして、うさ麻呂の最後は燐が背負っていくものだろう。
「忘れずに覚えてくれているものがいる。それだけで、きっと寒くはないだろう」
燐もそうか、と答える。
空から雪が落ちてきている。二人の手が自然と近くなった。
握った手は、お互いに温かかった。
「・・・ちょっと思ったけど、俺らって忘れられたりはしてねぇよな?」
「少なくとも、お前の弟はお前がいなくなったら楽にはなりそうだな」
「ひでぇ」
しかし、雪男に迷惑をかけている自覚はあるので少しだけ脳裏によぎる。
俺がいなかったら、雪男は自由なのだろうか。
それはたぶん本当だ。雪男、ご飯ちゃんと食べてるかなぁ。
リュウはごつん、と燐の頭を拳で軽く叩いた。
「冗談だ、気にするな」
「・・・うん」
そのまま二人で星を眺めた。まずは体力を温存する。
それが重要だ。
***
雪男はいらいらしていた。
部屋を探しても、日本支部の思い当たる場所を探しても未だに燐の行方がわからなかったからだ。
最悪の想像が頭をよぎる。
ヴァチカンに連行されてしまっていたら。
イルミナティに連れ去られていたとしたら。
しかし、メフィストが言うには学園外に出た痕跡はないらしい。
では、一体どこにいるのだろうか。
雪男は祓魔塾の講師が集まる職員室に足を向けた。
「あれ、奥村君こんな時間にどうしたの?今日夜勤じゃなかったよね?」
「ええ・・・ちょっと探し物、を」
雪男は言葉を濁した。燐が消えたことはまだ支部には知られていない。
ごく限られたものしか情報が与えられないのは、それだけ燐の立場がまだ安定していないことを示していた。
「あれ、君もなにか無くしたの?」
「君も、とは?」
支部内で最近よく物が消えるという話を講師は話した。
昔から何かしらものがなくなることはあったらしいが、最近は頻発しているらしい。
雪男自身は物をなくすこと自体が少ないので、あまり気にしていなかったのだが。
「そういえば、塾生のみんな七不思議解決したんだってねぇ」
「ええ、協力して任務ができるようになってよかったです」
「貴重な一歩だよね、今年癖のある子多いから」
「そうですね」
本当なら世話話をしている暇はない。一刻も早く手がかりを見つけなければ。
一日二日なら誤魔化せるだろうが、それ以上は無理だ。
兄さん、どこにいるの。
講師が雪男の様子に気づく前に、電話が鳴った。
電話に出てしばらくすると、講師の声が荒くなる。
「え?台湾支部のリュウ氏が行方不明?」
その言葉を聞いて、雪男は呆然とした。
一体、何が起こっているんだ。
消えた二人の行方は、未だに掴めない。
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