青祓のネタ庫
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あの争乱の祭りが終わり、冬の景色が深くなってきた頃。
日本を訪れていたリュウは台湾に帰ることになった。
日本支部長であるメフィストが悪魔であることは公然の秘密である為、リュウも知っている。
支部の長たる立場であるが、リュウはメフィストのことを信用していない。
悪魔を信用することなど、できはしない。よく日本支部はこの上司で回っているなとつくづく思う。
リュウはメフィストの部屋に入って、台湾に帰る旨を伝えるとメフィストはそうですか。とだけ答えた。
「祭りは楽しかったですか?」
「それなりだ」
リュウは雪の中で出会った悪魔を思い出す。
社の前で佇んでおり、俺だけは忘れない。と寂しそうに呟いていた。
悪魔の心を開く悪魔。なかなかに珍しいものを見せてもらった。
かつて亡くした友は、リュウの側にはもういない。
もしももっと早くにあの悪魔に出会えていたのなら、
あの頃のリュウはもっと別の選択ができたのだろうか。
いや、過ぎ去った過去を蒸し返すのはナンセンスだ。
リュウはその考えを振り払う。
ただ、台湾に帰ったら昔作った友の墓に行こうと思った。
編み笠を被って、リュウは理事長室を後にしようと背を向けた。
メフィストはぽつりと呟いた。
「祭りの後は、もの悲しいですね。
なにか、珍しいものでも落ちていないでしょうか」
つまらなそうな声を、リュウは無視する。
おもしろいことを求める悪魔の声など禄な事にならない。
リュウはそのまま、台湾の支部に帰るために鍵を扉に差した。
***
祭りの後から、兄は元気がない。
雪男はため息をついて、寮の廊下を歩いていた。
燐は雪男や塾生にしきりに覚えていないのか、と聞き回っていた。
雪男達は燐が一体何を言っているのかわからなかった。そのたびに燐は寂しそうな顔をするだけだ。
燐は寒い雪の日にどこかへ行った後、やがて何も言わなくなった。
料理を作るとき、道を歩くとき。遠くを見るようになった以外は。
「兄さん、一体なにがあったんだろう」
片手に持ったポットの中には熱いお湯が入っている。
兄弟が住んでいる部屋は六○二号室だ。
食堂まで距離があるため、飲み物が飲みたいと思ってもすぐにはできない。
そのため、冬の間はポットを部屋に持ち込むことにしている。
満杯まで入れたので、二人で飲んでもかなり持つだろう。
部屋を出る時、燐は机の上で課題に取り組んでいた。湯を沸かしてから、戻るまで二十分もたっていない。
それでも一問でも進んでいてくれることを祈って扉を開けた。
「兄さん、何か飲みたいものある?」
雪男は料理をするのは余り得意ではないが、飲み物を作るくらいならできる。
料理を兄に任せている分、それくらいはしてやろうと思っていた。
緑茶だろうか、ほうじ茶だろうか。たぶんコーヒーはないな。
しかし、予想に反して答えは返ってこなかった。
雪男が部屋を見ると、中はがらんとしていた。
ストーブはつけてある。机の上にはノートと教科書。
隅には先ほどまで使っていただろうシャーペンが落ちていた。
「兄さん?」
さっきまでいたのに。どこに。トイレにでも行ったのだろうか。
雪男は疑問に思いながらも、特に気にせずにポットを机に置いた。
どこかに行くなら一言声をかけるだろうし、ストーブをつけっぱなしで出ることなど
貧乏修道院出身の二人にはあり得ない。
雪男は緑茶を二人分入れて、燐が部屋に戻るのを待った。
しかし、待てども待てども燐が帰ってくる様子はない。
雪男は時計を確認する。雪男が戻って来て丁度一時間ほどである。
食堂にでも行っているのだろうか。
でもそれはおかしい。それなら雪男と燐は廊下ですれ違っているはずだ。
トイレにしたって寒いからすぐに戻ってくるだろう。
なにかあったのだろうか。でも寮の中でなにが起こるというのだろう。
雪男は念のため、携帯電話をかけた。同じ部屋の中から音が聞こえてきた。
持って出てはいないらしい。
「用事でもあったのかな」
買い出しにでも行ったのだろうか。
気にはなったが、雪男はそのまま自分の仕事をする為にパソコンに向き合った。
雪男はこの選択を後にとても後悔することになる。
そして夕方になっても、燐が帰ってくることはなかった。
ポットの湯は、とっくに空になっていた。
メフィストの所に連絡が入ったのは、その日の晩だ。
燐と連絡が取れない。という雪男からの報告で全てを知った。
塾生からシュラまであらゆる所に連絡をかけたが、燐を見たという報告はない。
雪男はメフィストの執務机を叩いて訴えた。
「フェレス卿、何かされたのではないですか」
「なんでも私のせいですか」
確かに疑われることをしている自覚はある。
でも今回のことは完全に無実だ。おもしろいことが起きたなら全て把握しておきたいのが道化の本能。
「言っておきますけど、私のせいじゃないですからね」
メフィストは目を閉じた。燐の魔力を感じるためである。
燐自身は気づいていないだろうが、悪魔には生まれ持った力に比例した魔力というものがある。
大小様々な色や形をしており、悪魔同士はその魔力の大きさに従って強者が弱者を決めている。
そしてこの魔力は、悪魔同士の探索にも使われていた。
お互いの位置関係を把握しておくことは重要だ。
そうでないと、下級悪魔の場合は強者のテリトリーに入って殺されても文句は言えない。
メフィストの場合はその魔力を使って魔術を使っているので、
燐も使い方さえ学べば魔術が使えるようになるかもしれない。
つまり悪魔と魔力は切っても切れない関係にある。
その力を辿れば、燐の居場所など簡単にわかる。
目を閉じて、探った。そして、おや?と思う。
いつも感じているあの青い光が見当たらない。
おかしい。悪魔としての力に目覚めてから、燐の魔力はだだ漏れだ。
隠す方法もメフィストは教えていない。
と、なると考えられることは一つ。
「奥村君、行方不明ですね」
「え」
予想外の返答に雪男は困惑した。
いつもならメフィストはご心配なく、奥村君は―――などと言って居場所を把握していたのに。
いつもとは違うことが起きている。
メフィストは頭を回転させた。学園には結界が張ってある。
そこから出ようとしたならば、必ずわかる。
しかし今日一日結界が揺らいだ気配はなかった。では鍵を使って出たと考えるか。
それもおかしい。そもそも塾生である燐が使える鍵は限られている。
学園外に出るならば雪男やシュラなどの上位の祓魔師の力を借りなければ無理だろう。
そして、思い当たることがあった。メフィストはパソコンのキーボードを叩く。
画面に表示されたのは、今日一日の祓魔師及び塾生の外出データだ。
「今日日本支部から外部に出た祓魔師は十五人。
その内の十二名については既に支部に戻って来ています」
「残る三名は?」
「こちらも把握済みですね。そもそも日本支部の人間ではありませんから」
言われて思い出す。祭りの間に訪れていた、外部の人間の存在を。
台湾に戻ると聞いていたが、今日だったのか。
「さあて、これを見る限り奥村君は一体どこへ行ってしまったのでしょうね?」
足取りは一向に掴めない。こんなことは初めてだ。
メフィストが把握していないことを、雪男が知っているはずもない。
雪男の顔色が青くなる。心配でしょうがないのだろう。
メフィストはにやりと悪い顔で笑う。しかし機嫌は悪そうだ。
お気に入りのおもちゃを誰かにかすめ取られるのは気に入らない。
***
「う・・・」
燐が目を覚ますと、そこは薄暗い部屋の中だった。
見たこともない部屋だ。何故自分はここにいるのだろう。
燐は検討もつかなかった。
すると、暗闇の向こうから自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
こつん、こつん。とこちらに向かって来ているようだ。
「やっと起きたか、魔神の落胤」
台湾支部所属の上一級祓魔師。リュウ=セイリュウがそこにいた。
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