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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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リュウと悪魔

*劇場版と劇場版小説ネタあります*


「出動要請が出ていますよ☆」

いきなり現れたメフィストが、燐に軽い口調で告げた。
ここは旧男子寮。六○二号室だ。雪男は仕事をしているし、燐は課題をやっていた。
冬休みを満喫、とまではいかないが久しぶりに家にいた途端にこれか。雪男はため息をついた。
祓魔師になって数年。休日出勤当たり前の勤務体制だ。
今更休みの間に上司が現れようと、動揺する雪男ではなかった。
雪男が準備をしようと椅子から立ち上がると、メフィストが違う違うと手を振った。

「お呼びがかかっているのは、先生の方ではないんです。奥村君のほうなんですよ」
「え、兄は候補生ですよ」
「でも、直々の指名なんです。無下にするのも・・・ねぇ?」

メフィストはにやりと笑った。魔神の落胤である燐に直々に来る指名など碌でもないに決まっている。
雪男の眉間に皺がよった。対して、燐は嬉しそうだ。
任務にいけるんだ、とはしゃいでいる。座学が苦手な燐にとっては願ってもない任務だろう。

しかし、雪男はそう単純には考えられない。
そもそも、燐はまだ祓魔師ではない。候補生の身分である。
学生の身でありながら危険な任務に着く等、普通ならありえない。
騎士團の、使えるものは使ってやろうという魂胆が見えて、雪男は燐に振られる任務が好きではなかった。
使えない、と判断されたときに兄は一体どうなるのだろうか。
考えたくはないが、否定はできない考えだ。燐の処刑は保留になっただけで撤回されたわけではない。

「先生、騎士團にとって有益であると見せつけるのも方法の一つかと」
「・・・わかっています」

雪男の心を読んだかのようにメフィストが告げた。
でも、危険なことはさせたくないのが家族というものではないだろうか。
燐は倶梨伽羅を肩にかけて、準備は万端。という様子だ。
早くこの部屋、というよりも課題から抜け出したいだけなのだろう。
雪男はため息をついた。雪男の精神の安定を考えるなら、この部屋に閉じこもってくれた方がいいのだが。
聞き分けるような燐ではない。

「で、どこ行くんだ?」

燐の問いに、メフィストが懐から鍵を取り出した。
はい、と渡された鍵を受け取って不思議そうに見る。今まで見たこともない鍵だった。
新しいところへ行くのだろうか。珍しい。

「これで、台湾支部へ向かって下さい」
「は?」
「え・・・」

台湾、と言われて浮かんだのはあの南にある島だ。そう、日本ではない。
海外だ。貧乏修道院で育ったせいで、未だかつて海外に行ったことなどない。
当然パスポートだってないのに。いきなり行けとはどういうことだ。

「パスポートの申請なら無用です。騎士團は有事の際に備えて各国と協定を結んでいますから。
違法にはなりませんよ。単独行動は許されませんが、海外支部の人間が付けばある程度の行動は許されています」
「すっげー!俺海外初めて!」
「ちょっと待ってください!候補生にいきなり海外任務させるんですか!?」
「言葉の違いなら心配いりませんよ。台湾は日本語通じます」
「そうなの?俺行きたい!」
「兄さんは黙っててよ!」

雪男の心臓は心配で爆発しそうだった。なんだそれ。いきなり海外。
日本にいる時でさえ心配で仕様がないのに、海外なんか行ったらなにがあるか。
それに、海外の方が悪魔に対して風当たりが強い。ヨーロッパなどは魔女狩りがあったくらいだ。
悪魔への偏見や、排除は比べものにならない。
日本の場合はアニミズムに通じる神道があるせいか、生活空間の傍らに神や精霊、
悪魔がいる事にあまり抵抗がないのが他国とは違う珍しい特徴である。

雪男がぐるぐると悩んでいるのを後目に、燐はさっさと鍵を扉に差していた。
雪男がノブを回そうとする燐を慌てて止める。

「ちょっと待ってよ!」
「なんだよ、考えても無駄だろ。行ってから考えようぜ」

メフィストは燐の様子に笑いを隠せないようだ。ぶふッと噴出している。
雪男は観念して、メフィストに向き直る。

「僕も行きます、いいですよね?」

兄を海外で一人置き去りにしてしまうなんて、雪男が心配で参ってしまう。
メフィストは雪男の行動を予想していたのか、簡単に許可を出した。

「イイですよ、向こうには奥村君の監視役として上一級祓魔師の方を付けてもらう予定でしたけれど。
奥村先生、喧嘩しないでくださいね」
「は?」
「行けばわかりますよ。いってらっしゃい」

メフィストに促されて、二人は扉の向こうに押しやられた。
雪男は普段から緊急出動に備えているので、コートを羽織るだけで準備はできている。
くぐった扉の向こうには、日本とは違う異国の地が待っていた。
ビルの並びや、雑踏が日本とは違う。不思議な情緒あふれる光景だった。
所々日本語がある点から、やはり日本語も通じるのだろう。少しだけほっとする。
町の片隅で、編笠を被っている人物がいた。こちらを見ている。雪男はその人物に覚えがあった。

「リュウ=セイリュウ・・・さんですか?」
「覚えていたか」

リュウは笠を外して、簡単なあいさつをした。
あの祭りの時以来だ。相変わらず年齢不詳な外見をしている。
しかし、視線に以前の時のような冷酷さはなかった。なにか、憑き物が落ちたような顔をしている。

「奥村雪男、俺に鍛えられにでも来たのか?」

そういえば、そういう話しもあった。雪男は謹んでその話を辞退する。
今日は兄の監視に来たのであって、修行に来たわけではない。
リュウはそうか、とだけ言うと燐に向き直った。雪男は気づく。
メフィストが言っていた燐の監視役の上一級祓魔師とは、リュウのことだったのだと。

「来い、奥村燐」

リュウと燐は視線を交わすと、頷き合う。お互いに懐かしそうな目をしている。
雪男の胸にちくりと痛みが走った。自分は間に入れないような雰囲気を感じたのだ。

でも、と雪男は疑問に思う。リュウと燐はあの祭りの時もそんなに言葉を交わしてはいなかった。
任務の時だって、一緒になったことはない。それなのに、なぜこんなにも近い仲になっているのだろう。
雪男は無意識のうちに不快になった。なんだか自分が知らない兄を知っているぞと言われたような気がして。

「貴方が、兄を呼んだんですか?」

雪男はリュウに問いかけた。

「そうだ、やって欲しいことがあってな」
「危険なことはさせないで頂きたい」

雪男はきつい口調で言った。最初に言っておかなければ、兄がどんな目にあわされるかわかったものではない。
雪男の鋭い言葉に、燐が少し慌てた声を出す。

「俺は大丈夫だって、心配すんなよ」
「だって・・・」
「そうだな、説明はしよう」

リュウと兄弟は台湾支部の門をくぐった。沖縄にある首里城を彷彿とさせるような、赤い門に赤い建物。
素直に美しい建物だと思った。その門の裏手に、中庭に続く道があった。
リュウと色違いの衣装に身を包んだ門番の横を通り抜けると、芝生に包まれた道を歩く。
程なくして着いた庭は、美しい花が咲いていた。その花の中に、埋もれるように石が置いてある。
それを横目でちらりと見て、燐は立ち止った。
石の方になにかの光が見えたからだ。急に立ち止った燐に、リュウは問いかける。

「どうした」

もう一度見るが、光はもう消えている。気のせいか。

「いや・・・なんでもない」
「いくぞ」

中庭を通り抜けると、小さな離れがあった。そこはシンプルな作りで、屋根も黒い色をしている。
中に入ると、小さな机と椅子があるだけだった。
しかし、窓から見える中庭が美しい様相をしているので、休憩所として造られたのかもしれない。
三人は中に入って用意された椅子に座る。リュウが手を挙げると、どこからともなく使用人のような者が出てきた。
使用人は三人の前にお茶を置くと、すぐに去って行った。離れの中にお茶のいい香りが広がる。

「いいにおいだな」
「飲め、別に退魔の術などかけてはいない」

雪男が警戒していたのを知ってか、リュウは先に口をつけた。雪男もお茶に口をつける。

「では頂きます」

美味しい。そして、特にハーブや退魔の聖水等が使われていないことを確認して、燐に飲むように言った。

「お前、やりすぎだぞ・・・」

燐の小言を聞きのがして、雪男はお茶を飲んだ。
素直に美味しいと思ったので美味しいですね、とだけ言っている。
リュウが雪男の態度を気にしていないのが幸いだ。燐は弟の態度に少し緊張している。
燐は、あの祭りの日のことを覚えている。でも雪男は覚えていないのだ。

うさ麻呂と過ごした思い出を持っているものは、今はもう。

燐はちらりとリュウを見た。リュウも、覚えてはいる。らしい。直接聞いたことはないのでわからないが。
態度からわかった。燐のようにはっきりとではないだろうが、やはりあの絵本の一族の血を引いているからだろうか。

「奥村燐、お前を呼んだのは他でもない。話して欲しい悪魔がいる」
「悪魔?」
「そうだ、歴史的な建造物に憑りついていて無理に殺せば建物に傷がつかないとも限らない。
悪魔と話せる者は騎士團にもわずかにしかいないのでな。呼んだのは、そのためだ」

雪男はうわあああ、と思った。嫌な予感がしたのは歴史的建造物。という点だ。
兄はとにかく任務の度に物を壊す。どうしよう、説得に失敗して建物壊したらどうしよう。
嫌な汗が止まらなかった。
対して燐は笑いながらリュウに話しかけている。

「まかせとけって!今からでもいいから行こうぜ!」
「ちょっと兄さん、そんな安請け合いしないでよ!」
「では、善は急げだ。行くぞ」

リュウは懐から鍵を取り出すと、離れの扉に差した。雪男は今だけはこの便利鍵が憎かった。
頭の中には弁償の二文字しかない。開かれた扉の向こうには、高そうな建物が。
終わった。と雪男は思った。

***

しかし、当初の雪男の予想は外れたのだった。建物に憑りついていた悪魔は、黒い塊だった。
初めに見た時にはわからなかったが、魍魎の集合体らしい。
だが集合体になっていることで意志を持っているようだ。
魍魎を祓うには、一気に焼き尽くすか消滅させるのが一番だ。

建物が重要文化財級でなければできただろうが、傷をつけずにこれを祓うのは難しい。
祓っても祓っても魍魎はどこからともなく沸いてくる。うっとおしいことこの上ないのが腐の眷属の特性だった。
燐が悪魔に声をかけた。すると、悪魔は燐の声に反応して視線をぐるりと向けてくる。
燐はその瞬間にぞくりとした寒気を感じた。

なにこれ。嫌な予感。そしてその燐の嫌な予感はよく当たる。
悪魔は嬉々として燐の方に飛びついてきた。建物から離れたので、任務としては成功だ。
悪魔は大声で吠えた。

『わ、若君イイイイイイイイイイイイイ!!!お探ししておりましたああああ!!!』
「ぎゃあああ!こいつアスタロトの眷属だああああ!!!」

燐は一目散に逃げた。アスタロト、それは燐に初めて襲いかかってきた悪魔でもある。
八候王の一人にも数えられる腐の王だが、ことあるごとに燐を追いかけてくるストーカー体質も持っていた。
アスタロト自身だけではなく、その眷属にも燐を追うように指示しているとか。なにこれ怖い。
燐は恐怖でいっぱいになった。
建物から十分に離れたことを確認すると、雪男は魍魎に発砲した。
しかし、分解はされるが消滅はしない。やはり全体攻撃でないと無理なようだ。

「兄さん!!」

そうこうしているうちに、燐が魍魎の手に握られていた。大量のイナゴの群れにたかられているようなものだ。
燐の悲鳴は止まない。それでも必死に語りかけているところを見ると、
真面目に任務をこなそうとしているようだった。

兄さん、もう建物から離れているから気にしないで燃やしていいんだよ!

体をわさわさ触られているのかもしれない。
燐の体が震えている。雪男がキレそうになったところで、リュウが飛び出した。

「破ッ!」

棍を振りかざして、燐を捕えている腕を切り取った。魍魎が離れる。リュウは燐に声をかけた。

「あの時と同じようにする、お前は隙を叩け!」

そう言うと、リュウは魍魎の体に飛びついた。
魍魎が融合しすぎて、すでに人が乗れるまでに実体化しているようだ。
どんどん性質が悪くなってきている。早く叩かなければ、何が起こるかわからない。
リュウは棍を魍魎の体に当てると、呪を唱えて爆発させる。
これは、幽霊列車を排除した時と同じやり方だった。肉片を飛び散らせながら、魍魎の体を削っていく。

リュウの狙いが、燐にはわかった。

魍魎は体を蠢かせながら四本足で走っていった。身体が徐々に小さくなっていく。
燐はその隙を狙って、倶梨伽羅を抜いた。青い炎に包まれる。刀に炎を収束させて、振り下ろした。

「終わりだッ!!」

炎は魍魎を焼き尽くした。しかし、リュウを焼いたりはしない。リュウは青い炎の放たれた地面に降り立った。
身体に纏わりついていた魍魎も焼き尽くされて消えていく。空気も浄化されているようだ。
リュウは炎の中から歩いて出てきた。燐に向き直って笑いかける。

「協力、感謝する」
「お前・・・あいつが俺のこと狙ってたって知ってたんじゃねーだろうな!?」
「悪魔の言葉はわからん」
「本当かよ・・・」

だが嘘をついているようにも見えない。燐は納得はできないまでも、一応怒りを収めた。
すると、背後から何かプレッシャーのようなものを感じた。燐は振り返る。
背後には、不機嫌を隠そうともしない雪男がいた。

「なに、あれ」
「なにって?」
「あの時と同じようにって、何」
「あー・・・それは」

実に説明しにくい。幽霊列車と遭遇し、うさ麻呂と出会い。別れた。あの出来事はなかったことにされている。
燐は確かに経験したことだが、なかったことを説明しろと言われても難しい。
燐が悩んでいると、リュウが燐を引き寄せて雪男に告げた。

「俺とこいつだけの、秘密だ。諦めろ」
「え」

からかうように告げるものだから、燐も動揺する。こいつ、こんな顔もできたのか。
でも、怖い。雪男の形相が怖い。人を殺しそうな目をしているじゃないか。

「ゆ、雪男ッ誤解だって」
「秘密ねぇー、ふぅーん。二人で何してたのかすごく気になるな。僕」

たぶん日本に帰ってからもねちねちいじめられるタイプの怒り方だ。最悪である。
悪魔を祓ったので、もうここにいる必要はない。


リュウが使用した鍵を使って、三人は離れに戻ってきた。
そこには新しいお茶と菓子が用意されていた。一服してから帰れ、ということだろう。
でも、雪男とリュウのぎすぎすした関係に慣れなくて、燐はしばらくして離れを抜け出した。
道を辿って、中庭の方へ足を踏み入れる。来た時に見かけた、あの光が気になっていた。
花々に埋もれる石の傍に、そっとしゃがみこむ。

石は無造作にあるように見えるが、何かの意図をもっているようだった。
そう、まるで。誰かのお墓のような。

燐が見ていると、誰かの声が聞こえてきた。

『・・・り・・・う』
「え?」
『リュウ、だいじょうぶかなぁ』

燐が目を見張る。お墓の上には、小さな猫の悪魔がいた。
燐は猫に話しかける。もしかして、この猫が呼んでいるのはあの男のことではないだろうか。

「お前、あいつの知り合いか?」
『ぼくがみえるの?』
「ああ、俺悪魔だからな」
『ぼく、リュウにはらわれちゃったんだ。でも、それはリュウのせいなんかじゃない。
リュウがそのこときにしてないか、ずっとしんぱいだったんだ』

悪魔でも、思い残したことがあると幽霊。ゴーストになるものなのか。
この悪魔はリュウのことが心配で、この世に残っているらしい。
悪魔は随分とかわいらしい外見をしていた。あの仏頂面のリュウとこの悪魔が一緒にいる所を想像して少し笑った。
人間であるリュウには悪魔の言葉もわからないし。こんなに力の弱い悪魔では実体化することもできないだろう。
それでも、リュウのことが心配で、ずっとここに残っていたのだ。燐は悪魔に笑いかける。

「・・・お前、あいつの友達なのか?」

猫の悪魔が笑った。


『うん、だいじなともだちだよ。ずっと、ずっと!』


リュウもこの猫の悪魔が大事だったのだろう。
だから、この美しい中庭にひっそりとお墓を作ったのだ。
燐は離れにいる二人に声をかけた。
悪魔がいるぞ、というと二人は急いで飛んでくるだろう。二人には見えないこの悪魔の言葉を、伝えてやろう。
リュウは、ずっと聞きたかった友達の言葉だろうから。とても驚くかもしれない。

目の前にいる透明な悪魔を見て、燐はうさ麻呂の姿を思い出した。
なかったことにされても、燐はうさ麻呂の姿を覚えている。あの時のリュウを、燐を、町の皆を救ったのはうさ麻呂だ。
燐は覚えている。忘れたりなんかしない。

「ずっとずっと大切な・・・俺の弟だからな」

雪男が聞けば、また怒りそうな話である。あのときもすごく動揺していたから。
燐は雪男の動揺が不思議で仕方がなかった。家族が増えることはいいことだろうに。

雪男の動揺の影には、雪男の兄を取られるかもしれないという独占欲があったことに、燐が気づくことはない。
リュウは秘密だ、と言ったけれど。帰ったら雪男に話そうと燐は思った。

寂しがり屋で、人が好きで、それでも人を守っていった。
大切な、弟がいたという話を。

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