青祓のネタ庫
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兄さん、僕がわかる。
目が覚めた時、雪男が心配そうな顔で見ていた。
どうしたんだよ、そんな顔して。俺は大丈夫だって。
だからそんな顔すんなよ。
燐の瞳は閉じていった、起きていたいのに眠っていく。
燐の意志とは関係なく。早く起きないといけない。そう思いながら眠りに落ちた。
「あれ・・・?」
目が覚めると、見慣れた天井だった。ここは旧男子寮だ。
どうしてここにいるのだろう。体育の授業に出ようと思って、着替えていたはずなのに。
どうして。燐は起きあがった。体がだるい。なんだろう、こんなこと初めてだ。
「雪男ー?」
弟の名前を呼んだ。ここに住んでいるのは雪男と燐だけだ。
しかし、開いた扉から入ってきたのはここにいるはずのない人物で。燐は目が点になった。
「勝呂!?」
「悪かったな、先生やなくて」
勝呂は桶とタオルを持って部屋に入ってきていた。燐は急いで起きあがる。
ぐらりと意識が揺れる。なんだろう。これ。こんな状態初めてだ。
起きあがったはいいものの、立ち歩く気力はなかった。
燐は自分の着ている服が制服ではないことに気づいた。
青い着物を羽織っている。着物といっても生地が着物よりも薄いので浴衣のようだ。
汗をかいているが、脱げばそのまま下着である。でも、脱ぐのもだるい。
勝呂はベッドの脇に座って、桶を置いた。桶にタオルを浸けて、絞っていた。
湯気が出ているので入れてあるのは湯だろう。勝呂は燐の着ていた着物をはだけさせた。
「もうちょいで終わるから大人しくしとき」
「え?ちょ・・・」
座っている燐の腹を出させてタオルで拭いていく。あたたかくて気持ちがいい。
いや、違うだろ。燐は勝呂の手を掴んだ。
「なんでお前ここいんだよ?」
「先生から連絡もらって、お前の世話してほしい言われてんねん。
戻るまでここにおるから。ええから転がれ」
ころんと布団の上に転がされてしまう。いつもなら勝呂の腕も振り払えるのに、できない。
自分の体は一体どうしてしまったのだろうか。
燐は不安そうな表情で勝呂の行為を見つめていた。
腹を拭いて、着物をはだけさせられて体を拭かれてしまった。
気持ちいいけど、恥ずかしい。友達にしてもらう行為ではない気がする。
少なくとも燐の記憶の中にはない初めてのことだった。
勝呂はタオルを桶に入れると、燐の額に手を当てた。
「熱があるな、何か飲むか?」
「熱・・・?」
熱。と言われて思い出したのは雪男が風邪を引いて苦しそうにしている様子だった。
雪男の時とは違って咳も喉の痛みもない。
燐は未だかつて病気というものをしたことがない。つまり、これは初めての熱ということだ。
燐は熱があるせいか、テンションがおかしくなっていた。
「すげぇ!俺熱出すとか初めてだ!」
「落ち着け、熱上がるやろ」
勝呂が燐をまた転がした。首に手を当てる。やはり少し高い。
勝呂は脇に置いておいたスポーツドリンクと水を混ぜて燐に渡した。
それを一口で飲み干してしまう。汗をかいて、喉が乾いていたのだろう。
燐は寝転がったまま勝呂に声をかけた。
「ありがとな、勝呂。ここまでしてもらって。あとは大丈夫だから
もう帰った方がいいぞ。お前に風邪移しちゃ悪いし」
「俺に移るようなもんちゃうから、ええんや」
勝呂はじっと燐を見た。燐は今まで風邪を引いたことも熱を出したこともない。
その燐が熱を出しているのだ。
その事実がどれだけまずいことか、燐は理解していないのだろう。
勝呂は燐の腹を見た。そこにまたタオルを乗せて、ふき取る。
タオルには黒いインクがついていた。雪男が燐の腹に描いた絵の残骸だ。
今は燐の腹には何も描かれていない。しかし、勝呂には見えている。
燐の腹を取り囲むように巻き付いている植物が。
燐が弱っていくたびに成長していく蠢く蔦があることを。
これは寄生型悪魔だ。悪魔に取り憑き、その悪魔の力を吸い取っていく。
寄生されているのに、大丈夫だ。と言う燐が勝呂は許せなかった。
「お前、これが本当に見えへんのか?」
「何が?」
やはり、燐には見えていないらしい。雪男から連絡はあったが、確信した。
勝呂はペンを取りだした。燐の着物をはだけさせる。
燐は勝呂のただならぬ様子に気がついたようだった。
勝呂の腕を掴んで、止めさせようとする。だが勝呂の覚悟はもう決まっている。
自覚がないのなら、させるまでや。
勝呂の手が燐の体に触れた。燐はぞくりとした感覚が沸いたことがわかった。鳥肌だ。
警戒している。俺が勝呂に?なぜだろう。今から行われることに怯えているようだ。
燐はなぜ自分がそう思うのか理解できなかった。
思えば、雪男に触れられることも拒否していたことがあった。
勝呂は無遠慮に燐の体に触れてくる。嫌だ。怖い。
燐は払いのけようとするが、燐の体は熱で力が出ない。
「勝呂!やめろって!」
「・・・自覚は大事やで奥村。ちょっと我慢せぇ」
燐の腰に巻き付いていた帯を引き抜くと、そのまま腕に巻き付けた。
帯の端はベッドサイドに巻き付ける。着物ははだけているし、腕は帯で拘束。
志摩が見れば興奮しそうだし、雪男が見れば誤解されそうだ。
勝呂はまだ先生が帰ってきませんように。と祈った。
燐は腕を引っ張って帯を外そうとするが、巻き方が独特で外せそうもなかった。
「結い方にもコツがあんねん、諦めろ」
「いっ・・・」
ペンが、燐の肌を滑っていく。気持ち悪い。気持ち悪い。
くすぐったい感触しかしないはずなのに、気持ちが拒絶する。
それは燐の思うところとは別の場所から沸いているような感覚だった。
足を動かそうとするが、勝呂はそれも予測していたようだった。
片腕で簡単に押さえ込まれてしまう。
体をよじらせるが、その都度転がされて元の位置に戻される。
そのうち、体力がなくなって抵抗もできなくなった。勝呂の手が、ようやく止まった。
燐は恨みがましい視線を向けた。
好き勝手に体をいじられるなんて不快以外の何物でもない。
「なにすんだよッ」
「これ見てまだそんなこと言えるんか?!」
勝呂は燐に自分の体を見るように言った。
腹に視線を向ければ、そこにはおびただしい量の蔦が描かれていた。
燐はそこで初めて異常なことが起きていることを理解した。
人生で初めての熱。体のだるさ。そして勝呂が訴える異常。
「よく見ろや!」
「勝呂、やめッ」
勝呂は動揺する燐の体を持ち上げると、鏡の前に連れていった。
そうすれば、もっとその蔦の範囲がわかった。
燐を拘束するように、巻き付いている。まるで呪いのようだった。
自分が倒れたのは、これが原因か。
いつからだったんだろう。燐は記憶を辿った。そして、電車での出来事を思い出した。
どうして今まで言えなかったのかはわからない。
もしかしたら、この蔦のせいだったのだろうか。
青い顔をしている燐をベッドに座らせると、勝呂は床に座って燐の顔を見た。
「先生に言われた、お前を見てて欲しいて。奥村、話せるだけでええ。心当たりないか?」
「心当たり・・・」
藤堂に会った、あの時のこと。言えなかった出来事。
燐は重い口を開けた。
***
雪男は駅員への聞き取り調査を終えると、終電の電車を待つ為にホームに入った。
駅員に燐の写真を見せると、確かに覚えていると言われた。
学生が学園の外に出る終電に乗ることは珍しい為、記憶していたのだ。
足跡を辿ると、別に怪しいところはなかった。
そうなると、電車の中で何かあったと考えられる。
終電の電車がホームに入ってきた。駅員は、燐以外に乗客はいなかったと言っている。
しかし、同乗者が悪魔だったならば話は別だ。
目くらましを使って忍び込めば、人目にはつかないだろう。
電車の扉が閉まって、発進する。がたんと揺れる車内で雪男はぐるりと中を見た。
車内には誰もいなかった。今雪男がいる場所は電車の最高尾だ。
電車は三両編成。どこに座っていたのだろう。
雪男は慎重に兄が取りそうな行動を考える。急いで飛び乗った。
それならば、この最高尾だろうか。いや、たぶん違うな。
双子ならではの感覚を全開にして、たどり着いた先は真ん中の車両だった。
おそらくここだ。祓魔師は勘を大事にしろと神父にも教わっている。
雪男は銃弾を装填した。
だが、どこかまでは流石にわからない。雪男は銃弾を天井に向ける。
時の砂、と言っていた。
どんな効果があるかはわからない。天井ならば作りは頑丈だ。
それになにかあっても車両走行上問題になる重要な機関は置いていない。
雪男は引き金を引いた。
しゃあああん、という音が響いて車内に光が響く。
天井から降ってきたのは細かい砂だった。
雪男の手にも落ちてきて、一握りの砂が残される。落ちた砂は収束してひとつの形を象った。
「兄さん?」
砂でできた燐が、座席に座っている。
時の砂はその時なにが起こっていたのかを蜃気楼のように見ることができます。
とメフィストは言っていた。
だが声は聞こえないようだ。砂だけでできているので、音までは出ないらしい。
座席に座っている燐は、視線を外して別の場所を見ていた。
そこには何もなかった。雪男は首を傾げて、しばらく燐が座っているのを見ていた。
眠いのだろう。船を漕いでいる。
このまま、何事もなければ。
雪男はそう思った。でももう起きてしまったことだ。
燐の様子がおかしくなった。お腹を押さえて座席に倒れ込む。
「兄さんッ!?」
雪男はその光景を見ていることしかできない。
燐がもがいて、のしかかる誰かをどかそうとしている。
誰だ。砂はその相手の姿を見せない。砂が足りないのだろうか。
雪男は先ほど降ってきた砂を一握り持っていた。
それを座席に向かって振りかける。信じたくなかった。そこには。
「藤堂・・・!」
京都での事件以来、潜んでいた男がそこにいた。男は笑っていた。
笑って燐のことを嬲っている。怒りで目の前が真っ赤に染まった。
兄さんに手を出したのか。許せない。
座席から砂が流れ落ちている。これは、燐の腹から流れ出た血だ。
夥しい量の血が流れ出ている。
藤堂の腕が、燐の腹を探っていた。
抵抗しようとしたのだろうが、どうすることもできなかったようだ。
燐は藤堂に容赦なく殴られた。燐は気を失って倒れてしまっている。
藤堂の口が動いていた。
音がなくても、口元の動きで言葉を読むことができる。
『プレゼントだよ、ここでしっかりと育てるといい。奥村燐君』
雪男は思わず、砂の藤堂を殴りとばした。でも、砂なので腕はすり抜けて壁に当たるだけだった。
許せない。絶対に。兄さんと同じ目にあわせてやりたい。
藤堂は笑いながら兄を嬲っていた。目的はわからない。
もしも雪男の精神を攻撃する為の手段だとしたら、これ以上のものはないだろう。
悪魔に寄生する悪魔。燐の体を蝕んでいく男の狂気。
「藤堂、僕はお前を許さない」
雪男の言葉に、返す声が聞こえてくる。
男は目の前で見た蜃気楼の光景のように笑っていた。
「お兄さんは君のものではないだろう、奥村雪男君」
車両の連結扉の前に、藤堂が立っていた。
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