青祓のネタ庫
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宿り木に取り憑いた悪魔はその多くが寄生型の悪魔に変質する。
宿主に巣くうと、その身に宿っていることを悟られないように徐々に
宿主の体を喰い尽くしていく植物。
寄生型の悪魔は多種あれど、そのどれも共通しているのはその悪魔自体は
大した力を持っていないということだ。
この前遭遇した巨大な山魅にしても、おそらく気づかないまま体を乗っ取られて
あんなことになってしまった。
上級悪魔は、他の悪魔の気配に敏感だ。
恐らく寄生タイプの悪魔に取り付かれた上級がいないのも、
危機を察知する能力があるかないかというのも理由のひとつだろう。
仮にメフィストやアマイモンに憑こうとした寄生タイプがいても、一瞬で潰されるだろう。
雪男は教科書の上に載せた悪魔植物学の本をめくった。
次のページには、キメラタイプがいた。
悪魔薬学は人間の薬学と根本的には変わりはない。
様々な植物を掛け合わせて新たな植物を作り、薬にする。そういったことも日常的に行われている。
悪魔に憑かれた植物同士を掛け合わせて、別の悪魔への抗体を作る。
それは動物同士を掛け合わせて想像上の動物を作ろうとした練金術にも通じる行為だ。
悪魔同士の配合は騎士団の中でもごく少数の者にしか許されていない。
それは古くから騎士団に忠誠を誓っているような家柄の者も含まれていた。
新たな悪魔を生み出す行為は、魔神の所行。悪魔の行為と変わらないからだ。
研究者の間では、そうして生まれた悪魔のことをキメラタイプと呼んでいた。
雪男も知識としては知っていたが、進んでは調べていない。
不快な行為が、かなりあるからだ。
ページを進めれば、グロテスクな実験風景が映し出された。
悪魔を切り刻み、配合し、掛け合わせていく行為。人間と悪魔の境がわからなくなってしまうような。
雪男は前から聞こえてきた声に耳を向けた。
「奥村、この問題解いて見ろ」
雪男は黒板に眼を向けた。今は学園の授業中だ。
普段なら授業中に祓魔関係の本を出すことなどしないのだが、
雪男にはどうしても気になることがあった。黒板の問題をざっと見ると、雪男は答えた。
「5、です」
「正解だ、流石早いな」
教師は黒板に向き直った。教室の隅から女子の声がひそひそと聞こえてきている。
やっぱり奥村君かっこいいね。お兄さんとは違って。
黄色い声を無視して、本に向き直る。
この前の任務で燐は腕に寄生タイプの悪魔が憑いた。
あれだけ近づくなと言っていたのに、予想を裏切らない兄である。
今思い出してもため息が出る。そして、このところ不思議な行動も目立っていた。
まず、以前よりよく眠るようになった。
ただでさえ普通の人よりも眠る人種なのに、これ以上睡眠時間が増えたら日常生活に支障が出る。
あの時から。そう、遅刻してきた時から何かが変だ。
雪男は燐の不可解な行動を探ろうと考えていた。
でも、燐は何かを聞いてもはぐらかすばかり。
「なんで、隠すんだろう・・・」
嘘をついても昔はすぐにわかったのに。
どうして自分たちは肝心なところですれ違うのだろうか。
雪男はため息をついて本を閉じた。流石に教師にこの本が見つかったらまずいだろう。
鞄の中にしまうと、廊下から誰かが走ってくるのが見えた。
雪男たちの教室の扉が勢いよく開けられる。
別のクラスの教師だった。表情がかなり焦っていた。
「奥村、奥村雪男はいるかッ?!すぐに来い!」
雪男は立ち上がった。教師の顔に状況を察知する。
騎士団関係なら携帯に連絡があるはずだ。
つまり、一般の教師がこんなにも焦ると言うことは。
雪男の脳裏に燐の姿が浮かんだ。雪男は急いで廊下に出た。
扉が閉められる。教室に聞こえないように配慮したのだろう。
「お前のお兄さんが倒れた。今保健室にいる。すぐに行ってくれるか」
「兄さんがッ!?わかりました!」
雪男は自分の嫌な予感が当たったことに嫌悪した。
いつもそうだ。神父が倒れたときもそうだった。
今まで倒れたことなんてなかった兄が、倒れた。
それは緊急を要することを意味している。雪男は保健室へ向かって走った。
やはり、おかしいと気づいた時点で登校させるべきではなかったのだ。
「兄さん!」
雪男は保健室の扉を開けた。そこには、カーテンで仕切られたベッドが一つ。
あそこか。他に患者はいないようだ。カーテンの隙間から、誰かが顔を覗かせた。
見かけない顔だった。
「君は・・・?」
「あ、はじめまして。奥村君の弟さん・・・ですよね。僕醐醍院といいます。
奥村君とは同じクラスなんです」
「君が醐醍院君なんですね、兄からは話をよく聞いています」
雪男はカーテンの中に入る。燐はベッドに静かに横たわっていた。
顔に触れると温かい。眠っているだけのようだ。
でも、こうしても意識が戻らないなんて普通ではない。
「奥村君、授業時間になっても来ないから、おかしいと思って見に行ったんです。
探したら更衣室で倒れていて・・・」
「すみません、兄がご迷惑をおかけして」
雪男は醐醍院に教室に戻るように言った。雪男が来るまでずっとそばにいてくれたのだ。
これ以上一般人である彼に迷惑をかけるわけにはいかない。
しかし醐醍院はどうやら雪男が来るのを待っていたというのだ。
燐から雪男が祓魔師であることを聞いていたらしい。
醐醍院が燐にかけられている布団を取る。
「あの、これ見て貰えますか?」
醐醍院が燐の腹部を指さした。そこには燐の体操服がかけられている。
なんだろう。そう思って雪男が燐にかけられている服をめくる。
そして、目を見開いた。
「なん・・・だ、これッ!?」
燐の腹部には、植物の蔦が巻き付いていた。雪男は驚いてそれに触れて見る。
しかし、蔦の感触はしない。あるのは燐の肌のあたたかさだけ。
異様な光景だった。まるで刺青のような植物が肌に巣くっている状況。
雪男が見ていると、蔦が動く。
ぎょっとしていると、葉だけだったところに蕾のような小さな芽が作られていた。
この蔦は、生きている。
生きて、兄さんの体に巣くっているんだ。
吐き気がした。先ほどまで読んでいた本の内容がぐるぐると頭を巡る。
悪魔に寄生されているんだ。
いつ。どこで。だからなにかがおかしかったんだ。くそ、もっと早く気づいていれば。
雪男が眉間に皺を寄せていると、醐醍院が声をかけた。
「奥村君、大丈夫です・・・よね?」
それはすがるような視線だった。
そうだ、自分がこんな状態でどうする。雪男は我に返った。
まずは、できることから始めなければならない。
「大丈夫ですよ、兄は頑丈です。治療もありますから、君はもう帰った方がいい」
「そうですか、わかりました」
醐醍院はもう自分にできることはないと悟ったのだろう。
おとなしく保健室から出ていこうとした。
とぼとぼと去っていこうとする後ろ姿に、雪男は声をかけた。
「あの、兄に付き添ってくれて・・・ありがとうございました!」
いつも一人だった兄が一人ではなくなった。
やさしいクラスメイトに一言声をかけたかった。
醐醍院は雪男の言葉に振り返って、少しだけ笑った。
「奥村君、早く良くなるといいですね」
醐醍院はそう言うと、教室に帰っていった。雪男は燐に向き直る。
そこには医工騎士としての顔があった。
雪男は冷静に燐の意識の状況を確認する。声をかけても返事はない。
腕を引っ張って起こそうとしても、だらりと力のない体があるだけだ。
意識はない。だが、呼吸が浅いし寝息も聞こえてくる。
深い眠りについている状況のようだ。
雪男は燐の上着を脱がせて、蔦の状況を見た。
腹の中心から生じているようだが、全貌が掴みにくい。雪男は燐に謝った。
「ごめん兄さん・・・でもこのままじゃまずいから」
雪男は眠る燐に謝ると、ズボンに手をかけた。
別にやましいことをしているわけではないのだが、
意識のない相手にそういうことをしているという罪悪感がある。
雪男は決心すると燐のベルトを外して一気に引き下ろす。
シャツははだけているし、下着一枚だ。雪男は燐の体を調べた。
たぶん、今燐が起きたら間違いなく激怒するだろう。
雪男はそう思いながらも、蔦の状態を確認した。
燐の腹の中心部あたりから伸びた蔦が、腹を二周している。
蔦は一本だけではなく、途中から枝分かれしているようだ。
雪男は燐の足を持ち上げると足の部分に蔦が来ていないかを見た。
燐はされるがままだ。雪男は足を持った状態から元に戻そうとすると。
いきなりカーテンが開けられた。
「奥村君が倒れたと聞いてやってきました☆・・・ってあれ・・・ちょ・・・」
「フェレス卿ッ!?」
雪男は素早く燐の体に布団をかけた。
まさかいきなりやってくるとは思わなかったので、完全に見られてしまった。
別にやましいことはないのだが、メフィストの目は輝いている。
雪男はしまったと思った。
「おや?おや?奥村君今完全に裸でしたよね?
先生は奥村君の意識がないことをいいことに裸に向いてその体をいいように扱って・・・」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいッ!!
兄がこんな状態だというのに不謹慎な!それに下着はつけてますよ!」
「でもそれ以外はつけていないという・・・ってわかりました。
奥村君の様子を見に来たのは私も同じですから」
雪男の激怒した様子を見て、メフィストも言葉を慎んだ。
そして、燐にかけられていた布団をはいで、様子を見る。
メフィストは燐の首から腹にかけて、手を滑らせた。
それでも、燐が起きる気配はない。
雪男は妙だな。と思った。腹の模様に関して、なぜメフィストは言わないのだろうか。
雪男は疑問を口にした。
「あの、兄の腹にあるこの蔦のようなものは・・・悪魔のものでしょうか」
メフィストは雪男の言葉に目を見開いた。
「蔦、とは?」
「見てください!ここにあるでしょう!」
雪男は燐の腹部を指さすが、メフィストは首を傾げるばかりだ。
雪男は思い返した。醐醍院、は見えていた。メフィストは見えていない。
燐も、自分が倒れるまで気づいていなかったのだとしたら。
雪男に何も言わなかったことも頷ける。
「フェレス卿、これが見えていないんですか?」
雪男は問いかけた。メフィストは答える。
「ええ、何のことだかさっぱりわかりません」
悪魔だけが見えない、悪魔。
燐の体に巣くっているものの異様さに、雪男はぞっと悪寒を感じた。
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