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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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荊の胎動


スーパーで買ってきたレモンを搾るとふわりとすっぱい香りが燐の鼻孔を刺激した。
さわやかな香りで、気分が良くなる。
二個目のレモンは輪切りにして、絞り果汁と一緒に小分けにしてコップに入れる。
そこに、炭酸水をそそぎ込んで、しばらく混ぜる。
最後に味を調整しながらはちみつをそそげば、レモンサイダーの出来上がりだ。
口に含めばすっぱくて、目が冴えるような感覚がする。

「うめー、やっぱ疲れてたんだな俺」

悪魔になってから滅多なことでは疲れなくなったが、
藤堂に会うという非現実的な事柄に捕らわれて、睡眠不足だったのかもしれない。
悪夢にうなされる悪魔というのも変な話だが。
燐はもう一口サイダーを飲んだ。口の中でしゅわしゅわと炭酸が消えていく。
この炭酸が消えるたびに自分の中の違和感も消えていくようだった。

「兄さん何作ってるの?あ、おいしそうだね」
「お前も飲むか?」

燐が台所に立っていると雪男は何かを察知したかのようにそばに寄ってくる。
それは小さな頃からの癖みたいなものだ。
台所に来た雪男に、燐は親鳥が雛に餌を与えるかのように物を与えた。

兄さんお腹空いた。
おう、待ってろよ今できるからな。

そうして雪男は食欲が赴くままに栄養満点の燐の手料理を与えられ、
身長を伸ばしていった。
燐は雪男に背を追い越されて悔しいといつもいっているが、
その雪男を大きくしたのは燐の手料理が原因と言ってもいい。

作る側の人間は、自分の作った物を大量に食べることは実は少ない。
こうして同じものを食べておきながら、摂取量に違いができ、
成長期の体格にも影響を与えたことを燐は知る由もなかった。
燐は昔と同じように雪男に作っていたサイダーを与えた。
雪男は一口飲んで、すっぱいね。と口を窄める。

「珍しいね、兄さんが甘くしないなんて。美味しいけど」
「そうか?これでも蜂蜜いれたんだぞ。まぁ蜂蜜高いからなぁ」
「僕もうちょっと入れよう」

雪男は蜂蜜を追加すると、サイダーを一気に飲み干した。
ほのかな甘みと刺激が体に染み渡る。うん、おいしい。雪男は燐にコップを返した。
底に沈んでいたレモンもすっぱいすっぱいと口にしながらも全て食べている。
貧乏修道院育ちだ。食べ物を粗末にするなどあり得ない。

「ごちそうさま。目が冴えたよ」
「そりゃよかった。ついでに風呂でも入ってこいよ」
「先に入っていいの?」
「おう、片づけ済んだら入るからいいよ。
仕事で疲れてんだろ、いいから行ってこい」

雪男はサイダーを飲む燐をちらりと見て、お言葉に甘えて。と台所を出ていった。
いつもなら、もう少し甘い味が好みだったはずなのになぁ。
雪男はやや不思議に思った。急に味覚が変わることなどあるのだろうか。
それともレモンには疲労回復効果があるから単純に疲れていたのだろうか。

「でも、悪魔が疲れるって・・・相当だよね」

燐の体力は底が知れない。
そもそも人間ではないので当たり前なのだが、任務に行った先で疲れただの、
体が動かないだの聞いたことがない。
でも、睡眠不足はあるらしいから一慨には言えないのかも知れない。

燐は魔神の落胤だ。検査を受けているが人間である雪男とは勝手が違う。
加えて青い炎を受け継いだ悪魔と人間のハーフなど、燐以外に存在したことがない。
どのようなものがどのような影響を与えているのかわからないのだ。
雪男は燐の様子を伺っておくことに決めた。
おそらく、そんな大事ではないのだろうけれど。

「ただの、寝不足かもしれないな」

燐はよく眠る。十時間は寝なければ気が済まないというのだから、
ショートスリーパーの雪男にしてみればそこもよくわからない。
燐と雪男は双子だが、別々の存在だ。片割れのことを全て知ることなど不可能だ。

考えごとをしながらお風呂からあがると、雪男と入れ違いに燐が脱衣所に入ってきた。
片づけが終わったようだ。目をしょぼしょぼさせて、とても眠そうだった。
時刻はまだ午後九時である。早いな。雪男は毎度のことながら感心した。

「ちょっと兄さん、お風呂で溺れないでよ」
「大丈夫だ。それに備えてクロを待機させている」
「そう・・・クロ、兄さんを頼むよ。僕は上で仕事してるから」

燐の足下からにゅるりと出てきた黒い猫はにゃーん。と雪男に返事をした。
猫は水場が苦手だというが、この様子だと前もつき合わされたことがあったのだろう。
慣れた様子で燐の後をついて行っている。
雪男にはクロの言葉はわからないが、まかせとけ!くらいは言ってくれたのだろう。
雪男は脱衣所を出ていった。
兄弟でも、十五歳になれば一緒にお風呂に入ることは珍しい。
たまに時間が被れば一緒に入ることもあるが、本当に稀なことだった。

雪男が去った後、燐は瞼をこすりながら服を脱いでいった。
節約を考えれば雪男と入ってもいいのだが、自分より成長した体を見るのは、
兄として悔しいものがある。いくら同日に生まれたからと言っても、兄は兄だ。
というのが燐の持論である。弟を追い抜く日を夢見ながら、今日もストレッチをする。

伸びをすれば、少しは背が伸びないだろうか。燐は鏡を見た。
特に変わったことはない。たぶん伸びても背骨の誤差数ミリの差くらいだろう。
せつない。燐は自分の体を鏡でまじまじと見る。
腹筋もあるし、ある程度の筋肉がついているのになんであんなに
雪男と体格が違うのだろう。不公平だ。

「クロだってそう思うよなー」
「でも、ねこのきょうだいでもたいかくって
ちがうからそんなもんじゃないのか?」
「クロ・・・お前結構大人な発言だな」
「おれはおとななんだぞ!」

クロは燐に訴えた。子猫の姿をしているが、かなりの年上である。
そう訴えてもあまり信じて貰えていないのが悲しいところだが。
クロは尻尾をふりふりと振りながら、風呂場に入っていった。燐も後に続く。

燐も、クロも気づいていなかった。


鏡に映る燐の身体には、植物の蔦が巻き付いていた。
まるで刺青のように皮膚の上に生じており、
腰回りをぐるりと取り囲んでいる。
時折小さな葉を生やしている蔦は、腹の中心から生じているようだ。
そこは、藤堂に種を植え付けられた場所だった。
蔦が動く。少しだけ蔦の先が伸びる。

まるで発芽して、成長しているかのように。


「クロー、シャンプーしてやろうか?」
「シャンプーきらい!」
「わかったって、じゃあ風呂蓋の上に
タオル敷いてやるからそこであったまってろよ」

クロは大喜びで燐の用意した待機場所でぬくぬく温まった。
湯の温かさが蓋から伝わって、床暖房みたいな役目を果たしている。
クロはこれがお気に入りだった。
だから風呂での燐のお目付け役を買って出ているという理由もある。

燐は目を閉じる。温かい湯に浸かっていると意識が揺れた。
目が自然と落ちていく。だめだな。やっぱり疲れているんだ。早く出よう。

燐にも、クロにも、その蔦は見えていない。

燐は蔦を巻き付けたまま湯船から出ようとした。
意識がぐるりと揺れる。あ、だめだ倒れそう。
燐が踏ん張ろうとすると、背中にふんわりとした感触がした。
振り返ればクロが巨大化しており燐の体を支えていた。

「りんだいじょうぶか?のぼせたのか?」
「おう・・・ありがとなクロ」

燐は起きあがると、ふらつきながら脱衣所にたどり着いた。
クロは燐が心配だった。ここ最近燐はとても眠そうだ。
これは雪男に報告をせねばなるまい。

部屋に戻った後、燐はすぐに布団に入って寝てしまった。
クロは仕事をしている雪男にしきりに訴えた。

「にゃあああん、なああ。にゃーにゃー」
「クロ?どうしたの?お腹空いたの?」
「うううん、にゃあああ!」
「えーと、うん。わかったわかった」

雪男はクロのお腹を撫でて、クロを落ち着けさせようと努力した。
しかし、クロと雪男は決定的にすれ違っている。
クロの感じた違和感が雪男に伝わることはなかった。


***


「あれ、奥村君どうしたの。次体育だから急いで着替えないと」
「今日寝坊して体操服忘れたんだ!雪男に借りてきた!」

燐は急いで更衣室に入ると、制服の上着を脱いだ。
醐醍院はもう既に着替えており、更衣室を出るところだった。
燐はシャツに手をかけて、服を脱ごうとしている。
服の隙間から、何かが見えた。醐醍院は燐がいつもと違うことに気づいた。

「あれ・・・?」

違和感を感じる。けれど、言っている暇はなかった。時間が迫っている。
燐が遅刻しそうなことは珍しくないので、醐醍院は急いでね。
とだけ言うと集合場所に向かった。

しかし、チャイムが鳴って点呼を取る時になっても燐は来なかった。
どうしたのだろう。更衣室までは来ていたのに。
醐醍院は首を傾げる。
背後でクラスメイトが小声で話をしている声が聞こえてきた。
サボりかな。奥村君ってちょっと怖いもんね。
不良だから。知ってる?刺青とかしてるって噂。
口さがない言葉が飛び交う様子に、醐醍院は我慢できなかった。
燐には悪魔が見えることで世話になった。
本当はいい人なのに。醐醍院は手を挙げた。

「すみません、様子を見てきてもいいですか?」

醐醍院は体育の教師にそう言うと、運動場から更衣室に向かって走った。
周囲に人の気配はない。醐醍院は更衣室の扉を開けた。
中はしいんとしていて、物音がしない。
もしかして祓魔塾関係でなにかあったのかな。
それならば醐醍院はどうしようもない、あきらめようか。
醐醍院がそう思いながら、更衣室の奥へ進むと。

暗く、冷たい床の上に倒れている燐がいた。

「奥村くん!?どうしたの!?奥村くんッ!!」

醐醍院が駆け寄る。燐は着替えの途中で倒れたらしい。
服がはだけていた。服の隙間から覗いた肌に、後醍院は驚愕した。

「なんだ、この模様は・・・」

燐の体に巻き付いている蔦を醐醍院は怯えながら見ていた。
肌にまるで刺青のように張り付いている。
触っても、ふくらみなどは感じられない。取り憑いているのか。
着替えの時に感じたあの違和感は、間違いではなかったのだ。
醐醍院は咄嗟に燐に服をかけて、その体を隠した。
そして、大声で人を呼ぶ。

「誰か、誰か来てくださいッ!奥村君が!!」

醐醍院は急いで更衣室から出て行った。
その間、燐はぴくりとも動かなかった。

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