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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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十人目に騙された


燐は暗い部屋の中で、囲われていた。
電気は豆電球が一つ。
外に出るためのドアの前には燐の向かいに座っている人がいて出られない。
部屋はせまく、中は椅子が二個と机がひとつぎりぎり入るくらいの狭さだ。
部屋に設置された窓には枠が取り付けられており、その隙間から出ることはできない。
燐は拘束されていた。それも、人間に。

「で、なんで君夜にあんなとこ歩いていたのかな」
「おいいい、このパターン覚えがあるぞ・・・」

燐は机の上でうなだれた。ここは交番の、取調室である。
任務を終えた燐は一度男子寮に戻り荷物をおいた。
メフィストの部屋に向かうのに、重い荷物を持って行きたくはなかったのだ。
なぜだかわからないが、メフィストのところへ行く時には身軽にしようと燐は決めている。
なにかあるわけはないと思うのだが、何かあったときのためにすぐに逃げ出せるようにしておきたい。
そう本能が囁いている。燐は勉強はできないが、頭が悪いわけではない。
身の危険は、本能で感じ取っているらしい。

そんなこんなで荷物を置いて、外へ出たらこれである。
連日警官に捕まって連行されるなんで、燐には何か人とは違うオーラでも出ているのだろうか。
まあ人ではなく悪魔なのだが。悪いことはしていないのに、大変不本意だ。
燐は、早くここから抜け出したいと思って、お決まりの台詞を吐いた。

「俺はもう大人なんだよ!!」
「その外見で?あれかな、最近の高校生は進んでいるから。
童貞捨ててたら自分は大人とか思っちゃうんだよね。笑っちゃうよね。
君はどっちかというと、お酒とかたばこに走っちゃったタイプかな」
「ぐぬぬ・・・」

ど、童貞ちゃうわ!と言えたらどんなによかっただろうか。燐は黙り込んだ。
正直二十歳は越えているが騎士團の監視があるせいで、そういった色事には手を出せていない。
燐は最近の高校生にすら、俺は追い越されているのか。とショックを受けた。

童貞だけど大人です。

よっぽど言いたかったが、言えるわけもない。警官は口で言っても信じてくれない。
証拠を出さなければ信じて貰えないのだ。
燐はポケットを探して、祓魔師免許を出そうと考えた。
しかし、ポケットの中には小銭の軽い音しかしない。
しまった。燐は一度男子寮に戻っている。
あの荷物の中に、財布が、免許証が入っていたのだ。

「おいいい!またこのパターンかよッ!日本の警察はどうなってんだ!仕事しすぎだろ!」
「ほら、座って。よくわからないこと言わないの」
「そうだッあの時の警官の人っていないんですか!?俺一回その人に補導されたことあるんです!」
「へぇ、それ何日のこと?」

燐は当時の状況と日時を詳しく話した。すると警官がファイルを取り出して、
その警官が書いた調書や取り調べの内容をチェックし始める。
そしてじっくりと読んだ後、ファイルを閉じた。
書類にはこう書かれていた。


奥村 燐(つり目、青い瞳、黒髪が特徴)
かなり大きな派閥の後継者。組の重要人物である可能性あり。異母兄弟の九人目。
権力者である父親の正体は現時点では不明だが、要チェック人物。


運悪く、あの時の警官は今日非番だった。
誤解を解こうにも、悪魔の複雑な身の上を語れるわけもない。
書類の内容を見る限り、あの警官はまじめな性格だったようだ。
しかし、燐にとっての重要な語句、外見は若いが二十歳越えており大人。
という項目がすっぽり抜けていた。

なんという間の悪いミスだろうか。普通書くだろう。
しかし、人様とは違う家庭の事情をまともに見て、平静ではいられなかった可能性もある。
警官はあくまで人である。書類を見た後で、警官の燐を見る目が変わった。
燐は鋭い眼孔でヤのつく証拠を探そうとする警官に、身をすくませた。
ここでの対応を間違えれば、社会的に不名誉な留置という処置にならないとも限らない。

「で、君のご家族は何をしているのかな?
迎えに来てもらわないといけないんだけど。お父さんやお母さんは?」
「育ててくれた親父は本当の父親に殺されていねーし。
母親も、俺たちを生んで死んだって・・・家族は弟だけ」
「苦労してるね・・・ってことは本当のお父さんは捕まっちゃってるのかな。参ったな」
「いや、捕まってはいない。こことは別のところにいますけど」
「え、殺人者野放し状態?行き先は知ってるの?」

あ、まずい。燐の頭の中に瞬時に言い訳が巡った。

この世界と鏡合わせに存在している、虚無界という世界がありましてね。
そこの神様が俺の本当の父親で、俺は不本意ながらその跡継ぎとして悪魔に追われているわけです。
そうそう、父親って悪魔作った神様なんです。聖書にも載ってる有名人なんですよ。
あ、実のところ俺も悪魔なんですよ、しっぽ見ます?

などと言えるわけもない。燐は額に皺を寄せて悩んだ。
人をうまくあしらうのは雪男の得意分野だ。燐は正面突破が基本である。

「うーん、別世界。っていえばいいのか・・・」
「南米か密林にでも逃げちゃったのかな。すごい話だ」
「というよりも世界中に放火の罪で追われてて・・・って。あ、やべっ」
「・・・」

警官の顔がすごいことになっていて、燐はしゃべることを止めた。
たぶん全部は信じていないだろうが、確実に燐のことを危ない人を見る目で見ている。
今話したことは全部本当のことなのに、立場が違えばこうもわかりあえないものなのか。
燐は心が苦しくなった。
浮かぶのは、昼間にショックを受けた表情を見せた友達と、弟の姿だった。
早く帰りたい。早く帰ってこの茶番を終わらせたい。
そうだ、自分の目的はそうだったじゃないか。
燐はもう、恥を捨てた。

「うおおおお!俺を出せーー!俺は大人だー!」
「こら、暴れると公務執行妨害になるよ!
わかった、他にご家族いないの!?親戚のお兄さんとかは!?」

聞かれて、思い浮かんだのはメフィストとアスタロトこと白鳥だった。
もう一度メフィストに助けてもらうのか。
はたまたアスタロトに頼んで、取り繕ってもらうのか。
燐は瞬時に天秤を傾けた。どっちも無理。来た瞬間に交番が消し飛ぶだろう。
それは考え抜いた末に出した結論だった。


「雪男、たすけて」


***


雪男はたどり着いた交番の扉を急いであけた。
そこには椅子に座っている警官と燐がいた。
警官は雪男の姿を見るなり、「十人目か!?」と叫んでいた。
燐の弟である位置を考えれば、なるほど十人目に当たるだろう。
魔神の血縁の数を考えると、もしかしたら十では済まないかもしれないが、
もう説明することは不可能だ。警官は一般人である。
雪男は交番にたどり着くなり、免許証を見せて言った。

「すみませんうちのものがとんだご迷惑を。
身分証はこちらになりますので、番号でもなんでも控えてください」

警官は雪男の身分証と顔を交互に見て、質問した。

「あの・・・呼んだのはこの子の弟さんということらしいのですが・・・貴方は?」
「失礼、申し遅れましたが僕はこの子の親戚で奥村雪男といいます。
この子の弟から連絡を受けてここに来たんですよ」

雪男は年相応の背丈なので疑われることはない。
雪男が来たことで、警官はようやく処理に取りかかることができた。
そして、普通の人間の解釈で接し始めた。

「いやあ大人のお兄さんが迎えに来てくださってよかったです。
この子、家族は弟さんしかいないというもので」
「ええそうですね、少し複雑な家庭なもので」
「おい、雪男なにおかしな事言って・・・」

お前は俺の弟だろう。言おうとするが、雪男はすかさず燐の口を閉じて、黙らせた。
端から見たら失礼な物言いをした弟を黙らせる兄。という風貌だ。
口を手のひらで塞がれているので燐には言葉が返せない。
雪男と警官のやりとりは続く。

「やはり高校生をあまり深夜に外出させるのはよくないかと思われるのですが」
「ええ反省しております。僕たちには親がなく、
弟のことを甘やかしてきた僕の責任でもありますね」
「いえいえ、できたお兄さんを持って弟さんは幸せですよ。
近頃は男の子といえども危ないのでね、補導には力を入れているんですよ」
「そうなんですか。それは知らなかったな・・・物は相談なのですが、近頃変な輩がいましてね」
「ほう、それはどんな?」

燐にはよくわからない話をしながら、雪男は笑顔でしゃべっている。
しかし、内心燐の心は動揺していた。
メフィストに言われた仕返しはまだ終わっていないのに、雪男を呼ぶはめになってしまったのだ。
これはきっと怒っているだろう。

「でも、遠縁なせいでしょうか。お兄さんと弟さんってあまり似ていらっしゃらないんですね」

警官の言葉に雪男は返した。

「よく言われます」
「ええ、異母兄弟ですけど末の弟にはたまにお兄ちゃんと言われますよ」
「私は呼び捨てですが、それでもかまいません」

警官は後ずさった。なんだ、こいつらいつの間に。
見れば雪男の背後には、事の元凶のメフィストと今にも魂が抜けそうなアスタロトがいた。
おそらくメフィストとやり合って、体がついていかなかったのだろう。
それでも青い顔で燐にすがりついている。

「ご無事でなによりです、暴行させて下さい若君」
「おい、本音はそれかよ」
「こいつは従順なふりをしていますが、その反面残虐な嗜好も持ち合わせていますからね。
Mだと思ってたら大間違いですよ」

メフィストは傘でアスタロトを一突きすると、アスタロトは虚無界へと強制送還された。

倒れた白鳥は、またもや警官の元へ預けられた。燐よりも、白鳥の方が常習犯扱いである。
もちろん、本人に記憶はないが。
目の前で悪魔のやりとりを見せられた警官は目を白黒させている。
メフィストはそんなことには目もくれず、燐に手を差し伸べた。

「さぁ行きましょうか奥村君、お楽しみはこれからですよ」

めくるめく夜の始まりである。燐にとっては最高の悪夢だが。
メフィストの指が燐に触れようとしたところで、その手が捕まれた。
雪男が邪魔をしにきたのか。
メフィストは振り払おうとするが、その相手は雪男ではなかった。

「ちょっとお話を伺いたいのですが」

それは燐を補導してきた警官だった。メフィストには警官に捕まえられる理由がない。
こんなおっさんの外見が高校生に見えたのならそれは一体どんな魔法だろうか。
メフィストは訳がわからず首を傾げる。

「え?あの・・・何か私にご用で・・・」
「いえね、最近頻発している若い男子に声をかける不審者がいましてね。
そのことについてお聞きしたいことが」
「え?え?」
「こちらに来ていただけますか」

警官は、メフィストを取調室に連行しようとする。
燐はその様子をぽかんとした顔で見ているが、背後に立っている雪男とメフィストの目があった。
雪男の目は、笑っていた。


計画通り。


そんな顔だ。メフィストは叫んだ。
メフィストは表向き、ヨハン=ファウスト五世という名で正十字学園理事長という名誉ある職についている。
男子高校生を手込めにしようとした変質者。の疑いはその職をおびやかすような不名誉なものになりかねない。
警官相手にはうまく立ち回らなければまずいことになるだろう。
雪男の狙いはそこだ。


「私を出し抜いたつもりですか!だが貴方と奥村君はとうに違う道を歩いている。
貴方に燐が救えるか!」


今助けたところで、これから先も雪男が燐のそばにずっといれるかはわからない。
その点、メフィストならば適役だろう。悪魔と人の寿命の違いをメフィストは訴えている。
燐には人間としてではない、悪魔としての生き方もあるのだ。

それでも雪男には答えがあった。
雪男は燐を交番から連れ出しながら、そっとつぶやいた。


「わからない、だが共に生きることはできる」


兄弟は連行されていくメフィストを置いて、交番を去っていった。
一方、もののけ扱いされた燐はなんとも複雑な表情を浮かべている。
雪男につながれた手を、なんとはなしに離した。雪男は振り返る。

「兄さん、自分がまずいことした自覚はあるの」
「そりゃ・・・悪魔っぽいことした自覚はある」
「そうじゃなくて・・・ああ、もう面倒だな。
フェレス卿に生きたまま食べられそうになってたんだよ兄さんは」
「そうなの?あいつ人食べるのかよ」
「そ、だから気をつけてよね。今回、僕らにどれだけ迷惑かけたと思ってるのさ」

言い終わるか否かに、雪男の携帯に着信があり、雪男はそれに出た。
着信の相手は勝呂からであり、ことの次第を説明したら勝呂は安心した声をあげた。
雪男が燐の様子を伺えば、しょんぼりした表情をしている。
内容は、悪魔の聴覚で聞こえているようだ。
燐は勝呂のことを羨望の眼差しで見ているので、思うところもあるのだろう。

「あと、俺らの方も任務完了したんでメール送りますね」
「ありがとうございます。お疲れさまでした」

雪男が通話を切ると、すぐにメールが送られてきた。
そこには、アスタロトとの戦闘でぼろぼろになったメフィストの部屋が写されていた。
追い打ちをかけるように志摩が高濃度の聖水をぶちまけており、
寝室に張ってあった燐を捕らえるための結界もぼろぼろだ。
挙げ句の果てには、メフィストの娯楽ルームのゲームや
フィギュアが破壊されている光景も写っていた。
アスタロトとの戦闘によるものもあるが、京都組の頑張りもあったことは内緒の話である。

燐は所在なさげに視線を逸らすと、近くにあった公園の中に入っていった。
雪男はそれをゆっくりと歩いて追いかける。燐は、公園のブランコに座っていた。

「未成年を発見、補導しちゃうよ」
「うっせーな、お前までそんなこと言うなよ」

燐は足をぶらぶらと動かして、揺れた。
昔から帰りたくないことがあると燐は公園で時間を潰していた。
そんな燐を迎えに来たのは雪男であり、神父であった。断じて、あのピエロではない。
雪男は、燐に話しかけた。

「ねぇ、なんであの時僕に連絡しなかったのさ」

燐が補導されたあの日、メフィストに連絡したのは雪男だが、
それは監視役としての連絡だけの意味であって、燐を探すようになど
一言も言っていない。迎えに行くのは自分の役目だと雪男は自負していた。

「だって、俺もう大人だぞ」
「その割には中身子供と同じだけどね」
「うっせーな、俺はお前の兄ちゃんだぞ・・・言えるかよ」

燐は雪男に言い返す。
雪男と燐は双子で同じ年なのに、燐はずっと子供の姿のままである。
燐は雪男の背が伸びるたびに羨ましかったし、髭が生えた時は自分も生えないか鏡を見たこともあった。
でも燐は悪魔で、これから先人間と同じように成長できるかはわからない。
燐はそれがすごくイヤだった。
年齢を考えれば、燐はもう自分でなんでもできる年なのに、世間がそれを許さない。

「あーあ、早く大人になりてーなー」

悪魔としての成長を促すメフィストの手は、確実に燐に伸びている。
今回のことだって、そうだ。

だから、兄さんにはまだ子供のままでいてほしいな。

そう思う雪男の心を燐は知らない。
燐はブランコから降りて、雪男の元まで来た。
そして、雪男より先に歩き出す。

「言っとくけど、俺の家族って考えた時に浮かぶのは、お前とジジイだけだからな」

そう言って、燐は振り返らないままだった。
雪男は思い出す。メフィストと燐は、確かに魔神の息子として。悪魔としての繋がりがある。
お兄ちゃん。言葉一つだが雪男が燐に怒ったのは、
メフィストとの繋がりが深くなるのではないかという懸念もあったからだった。
でも、燐が選ぶのは人間の家族の雪男と神父だ。
だから、今回は雪男を呼んでくれたのだろう。兄としてのプライドより選んでくれたものがある。
雪男はそのことに安心感を覚える。

「なら、いいんだ」

雪男は燐の後ろを追いかける。
お互いに追い越したい思いを抱えたまま、兄弟は歩き出す。
大人になっても変わらない二人がそこにはあった。
雪男は携帯を操作して、先ほどのメールを送信した。

その夜、交番から十人目に騙された、というメフィストの絶叫が聞こえてきたという。



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