青祓のネタ庫
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 十人目に騙された | | HOME | | 志摩廉造の心は密かに荒ぶっていた ≫ |
メフィストに呼ばれて理事長室の扉を開ける前、燐はなぜだか妙な胸騒ぎがしていた。
胸の奥がざわついている。嫌な予感、とでもいうべきだろうか。燐の直感はよく当たる。
しかも部屋の前での胸騒ぎだなんて、十中八九中にいる人物が原因に決まっている。
燐はメフィストからの呼び出しを無視することに決めた。
人のことをおちょくって遊ぶことが趣味の悪魔だ。
一回や二回呼び出しを無視したってかまわないだろう。
燐はそう決めるとくるりと方向転換して、今来た廊下を戻ろうとした。
しかし、そんな行動などお見通しだったのだろう。
中から声がかかる。いつものスリーカウントだ。
「アインス・ツヴァイ・ドライ!」
ピンク色の煙に包まれたかと思うと、次の瞬間には理事長室の中にいた。
燐は目を開いてあたりを見回す。目の前にはニヤリと笑う悪魔が一人。
燐はメフィストに抗議した。
「いきなりなにすんだよ!」
「上司の呼び出しに応じない躾のなっていない
候補生を呼び出しただけではありませんか、問題でも?」
「・・・嫌な予感がした」
「流石奥村君です。第六感の鋭さは折り紙付きですね☆」
「なん・・・だとッ」
燐は後ずさりした。一体どんな無茶振りをされるのだろうか。
メフィストの口振りからして恐ろしい予感しかしない。
たぶん、燐が嫌がることだ。それは間違いないだろう。
メフィストは指を燐の背後に向けた。恐る恐る振り返って燐は目を見開いた。
そこには青い生地に美しい装飾が施された着物があった。
靴はブーツであることから、どこかモダンな雰囲気も醸し出している。
装飾の細かさと美しさを見れば、一目で価値のある一品だとわかるものだ。
まるで貴族が着ていそうな、祭事に使われていそうな着物だった。
燐は着物を見て首を傾げた。
「これがなんだよ」
「はい、君の衣装です」
「え」
燐は額から冷や汗をかいた。メフィストは動揺する燐を見てとても嬉しそうに答えた。
「君に任務を言い渡します。この着物を着て任務に向かってください。
詳しいことは夜君から聞くといい。連絡は既に取ってあります」
燐は全力で部屋から逃げ出そうとした。
しかし、制服の端をメフィストに捕まれて思い切り床に引き倒された。
抵抗材料となる倶利伽羅は早々に燐から引き離して、ソファの上に投げ飛ばす。
カシャンという金属音が響く。燐はメフィストを殴りとばそうと拳を上げた。
しかし拳ごと無情にも押さえ込まれてしまった。
床に倒れ込んだ燐の上にメフィストがのし掛かり、足も体重をかけて拘束される。
燐の馬鹿力も、同じ悪魔であるメフィストにとっては無意味にされてしまう。
「聞き分けのない子だ」
「どけよッ!」
燐が暴れようとすると、ちょうど扉の開く音がした。
燐は天の助けと思い扉の方向を向く。そこには燐を少し成長させたような容貌の、夜がいた。
夜はメフィストと燐の状態を見て怪訝な表情を浮かべる。
「未成年者暴行未遂・・・」
「失礼ですね、奥村君がこの衣装を着ないと言うからこうなったんですよ」
夜は視線をずらして豪華な衣装を見た。
そして燐が必死に抵抗する意味がわかってなんともいえない気分だ。
誰だって無理矢理着替えさせられそうになったら抵抗するだろう。
燐は床の上で芋虫のように蠢きながら抵抗した。
「イヤなものはイヤだ!!こんな高そうな着物着れるか!
任務に行った先で汚したら責任持てねーよ!」
「貴方変なとこで理性的ですよね」
「着物の汚れって取れにくいんだぞ!」
「・・・まぁそこはフェレス卿がクリーニングに出せば済むことじゃないか?」
「そうですね、高くは付きますが補償しますよ奥村君」
夜とメフィストに丸め込まれそうになっている。燐は声上げて抵抗した。
「メフィストに借りを作るのがイヤだッ!」
「それは確かにそう言えるな。燐、お前賢くなったなぁ」
「貴方たちがどういう目で私を見ているかよくわかりましたよ」
ぎりぎりとなおも抵抗の手を緩めない燐を片手で拘束して、メフィストは夜を呼びつけた。
「夜君、このままじゃ埒があかないんで奥村君押さえておいてください」
「え」
「夜!お前俺を見捨てるのかよ!」
「これは命令ですよ、ちょっとだけでいいですから!」
夜は非常に困った。
メフィストは上司だし、虚無界の権力者である八候王の一人にも数えられる人物だ。
下級悪魔の夜が逆らえるはずもない。でも燐はもっと大物だ。
今は候補生でいるが魔神の力を継ぐ唯一の後継者であり青い炎の使い手である。
どちらも夜にとっては逆らい難い。夜は少しの間思案して、二人に近づいた。
「すまん、許してくれ」
俺も今はしがない雇われ悪魔なんだ」
そう言って夜は燐の腕をがしりと掴んだ。燐の顔が真っ青になる。
夜は自分に味方してくれると思ってたのに。
所詮祓魔師と言ってもサラリーマンということだろう。
人間世界で生きるにはこうした処世術が必要だ。曰く、上司に逆らうべからず。
夜のお陰でメフィストの両手が自由になった。ここからが腕の見せ所だ。
どう辱めてやろうか。
メフィストは嬉しそうな顔で燐のネクタイに指を絡めると、しゅるりとネクタイの結び目を解いていく。
「ふふネクタイ結ぶのお上手ですね、
まるでプレゼントのリボンを解いているみたいで胸が高鳴ります」
「はーなーせー!!」
燐は最終手段の炎を使おうとするが、炎を使おうとすると体が硬直することに気づいた。
このクソピエロ。部屋全体に結界張りやがった。燐相手のメフィストの本気が怖い。
延びる魔の手から逃れようと、声を大にして叫んだ。
「雪男――ッ!助け・・・むぐぅ」
「ナイスタイミングです夜君」
「すまん燐。この償いは必ずするから・・・」
夜の手で口を塞がれ、手を拘束され。燐はメフィストによってぽんぽん脱がされていった。
高校生が大の大人によってたかって
拘束されて服を脱がされている姿を見て、夜はかなりの罪悪感を抱いた。
だってこれではまるで。
「なんだか強姦している気分ですね。ドキドキしますね」
「・・・やめてくれ頼むから」
燐を無理矢理。その実行犯に数えられることはごめんだ。
状況的にはそうでも、絶対にごめんだった。
悪魔二人の手によってセクハラとパワハラを受けた燐は、哀れ。
すべてが終わった頃には真っ白に燃え尽きていた。
***
「危ない!全員逃げろ!!」
森にある神木に向かって、祓魔師の男は声を荒げた。
瞬間、神木の前にあったお社がぐにゃりと曲がる。空間が捻れた後、お社は木っ端みじんに砕け散った。
ここは以前周囲の山を仕切る神が祭られていた神社だった。
しかし時代の移ろいと共に山岳信仰が廃れると、
以前はあったささやかなお祭りも、供物も、信仰心のある人間も少なくなっていった。
足の途絶えた神社は荒廃していく。神はただそこにあるだけの神となった。
祭られていた神は、名のある土地神だ。自分を忘れた人間に対して恨みを持った。
だから、山に立ち入った人間を次から次へと神隠しに会わせた。
いつからか、山は神隠しの山と呼ばれるようになった。
地元の人間は、ますます山に入らなくなった。
正十字騎士團は神隠しにあった人間を取り戻す依頼を受け、山に立ち入った。
しかし、名のある神なだけはある。空間を捻れさせ、姿を現さない。
いくら荒神となったとしても、神は神だ。神殺しは大罪である。
祓魔師のチームを率いていた男は、メンバーに後退するように言った。
メンバーの中には雪男も混じっていた。
「ここは一端引くぞ!この締め縄より後ろへ下がれ!」
神域を区切る締め縄は、そこにあるだけで結界の役目を果たす。
メンバーは全員、しめ縄の前。つまり神社へと続く階段へと避難していた。
祓魔師が逃げたことにより、荒神による攻撃も一端だが収まった。
だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
雪男はメンバーの手騎士に話しかけた。
「あの神は、なんて言っているかわかりますか?」
「使い魔からの話で概要だけはなんとか・・・」
手騎士は掻い摘んで話を述べる。あの神は人間に忘れられたことが悔しい。
人間にまた祭られたいと思っている。ここまではわかる。
だが、謝罪しろ。目上の者に会わせろ。と言っているという。
「使い魔から聞いた話なのであまり詳しくはわからないのですが、
どうもかなり気難しい性格だそうです」
「位が上の神は扱いにくいって言いますもんね」
雪男が眉をひそめる。しかし扱い辛いからといって神を殺すわけにはいかない。
あの神は周囲の山を統括しているのだし、殺せば山に影響がないとも限らない。
ことは穏便にすませたかった。
「つまりあの神様はいわゆる人間における上司からの謝罪、が
欲しいということでしょうか?」
「おそらく」
人間における目上の者からの謝罪。クレーマーみたいなことを言う神だ。
そうなるとこの中で一番位の高い者はチームリーダーだろうか。
リーダーの男はそれならばと声を上げて、叫んだ。
「申し訳ない!人間の都合によって振り回されご迷惑をおかけした!
この場を借りて謝罪します!!」
すると、べし。とリーダーの頭に緑色の毬栗が投げつけられた。
山からの攻撃、だろうか。リーダーは頭をさすりながら戻ってくる。
俺じゃ駄目みたいだ。一応上一級祓魔師なのに。とへこんでいた。
この中での上司が駄目。となると考えられるのは、この神社を祭っていた
近くの町の町長とかになるのだろうか。
しかし神隠しの被害にあっている町の住人を連れてくるわけにはいかないだろう。
今度は住人のほうから謝罪を求められそうだ。
雪男たちはあらゆる手段を取って対応してみたが、
その都度山からアオダイショウが投げられたり、石が飛んできたりした。
神はどれもお気に召さないようだ。
ではなにが言いたいのかというと、手騎士の使い魔では又聞き状態になってうまく話が聞き取れない。
神を沈める方法で一番やっかいなのが会話ができないことだった。
殺せないのなら説得するしかないのに、言葉が通じない。
これほどやりにくい相手はいないだろう。
神隠しにあった人間も浚われてから時間がたっている。
あまり長引かせるわけにもいかないのに、時間だけが過ぎていった。
リーダーの男が支部への定期連絡を終えると、辺りは徐々に暗くなっていっていた。
「なんとか日暮れまでに決着をつけたいけど」
視線を山へと向ける。辺りは夕暮れで赤く染まってきた。
雪男は神社へと続く階段に目を向けた。
神社は、山道から階段を上がってくるようになっている。
階段の両側には楠が植えられており、隙間から漏れる夕暮れの光が幻想的な雰囲気を作り出している。
その階段の下から、なにかがあがってきている。雪男は警戒して銃を構えた。
夕暮れ刻は逢魔ヶ時。悪魔が来てもおかしくはない。
徐々にこちらに近づいてくる人物は二人、一人は祓魔師のコートを着ていた。
そのことで雪男の警戒は少し取れる。
しかしその背後にいる人物は誰だろう。
青い豪奢な着物を着て、ゆっくりと登ってきている。
祓魔師の顔を確認して、雪男は声をかけた。
「夜さん?!」
驚いた。定期連絡で手こずっている情報を聞きつけて応援にきてくれたのだろうか。
祓魔師でもありながら悪魔でもある夜は、
言葉の通じない相手との会話には重宝されている。
雪男は夜が来たことに気を取られていたが、その後ろにいる人物を見て目が点になった。
そこには青い着物を着て、瞳の奥に静かな怒りを潜めている燐がいた。
なんで兄さんがここにいるの。
雪男は声をかけようとしたが、できなかった。
長年一緒にいるのだ。一目見てよくわかった。兄は、怒っている。
何に対してはわからないが、こうなった時の兄は手がつけられない。
雪男は一歩引いた。なにかまずいことにならなければいいのだが。
夜は締め縄の前までくると、口上を述べた。
ちなみにカンペ付きである。
「荒神様にかしこみ申す!我は上一級祓魔師だが、こ
ちらにおわす方にお仕えする下級悪魔でもある。
こちらにおわす方をそこらの人間とお思いになられるな。
やんごとない身分の、高貴なるお方であられる。
この度の荒神様のお戯れを深く嘆いていらっしゃる。
そこで荒神様のご用件をお聞きしに参った!」
夜が言い終わると、山がざわついてなにかの音を響かせた。
地鳴りのような、木々のささやきのようなそれは雪男達にはただの音にしか聞こえない。
しかし、夜には言葉として聞き取れているようだった。夜は眉をひそめる。
「謝罪、と供物・・・?いや、待て。そんな無茶なこと。
人質を拘束?私を誰だと思っている。神に逆らうのかって、えええ。まずい、な」
ぶつぶつとつぶやく言葉の端々から、まずい事態になっていることが伺えた。
どうやら、神様は怒っているらしい。
気むずかしいクレームの対応を行っていたところで、
訳の分からない悪魔が来たのだ。怒らないわけがない。
山がざわついて、上から枯れ葉が落ちて来た。
神が怒っているのだろう。夜は後ろを振り返った。
燐は黙ったままだ。夜は燐に声をかけた。
「この神様は、要求が通らないと人質を殺すそうだ。
しかもその人質ってのが神社の信仰を思い出してお供えしに来た人たちみたいだぞ。
ここの神様は頭に血が上って、自分の味方を浚っちまったみたいだ。
話も通じない。どうする?」
要求は自分を奉って、人間による謝罪と大量の供物。
その供物の中には人間まで含まれていた。どんどん内容がエスカレートしていっている。
自分の味方をしてくれた人を間違って拘束して、謝罪も要求している。
気むずかしいとは聞いていたが、ここまでくると流石に調子に乗っていると思わざるを得ない。
燐は一歩踏み出した。夜と雪男が一歩下がった。
そして、締め縄の手前で燐が言った。
「跪け」
途端に、青い炎が階段脇にあった楠に灯った。
炎はそのまま神社周辺の木々に宿って、神社を取り囲む炎のドームができあがった。
祓魔師のメンバーはその地獄のような光景に冷や汗をかいて叫んでいるし、
神様も青い炎に怯んだのか地鳴りがしている。
地獄絵図のようだった。なおも燐と神のにらみ合いは続いている。
時折炎が吹き荒れると、近くの空間が歪んで爆発を起こす。
物質界なのに虚無界のような光景だ。
夜と雪男はことの成り行きを見守っていたが、魔神の落胤と神様の
ガチンコ勝負を止めるタイミングがわからない。
二人とも燐に声をかけ辛くてしょうがなかった。
すると途端に炎が消え、地鳴りが止んだ。
辺りが静寂と暗闇に包まれる。燐は言った。
「てめぇのせいだろ!甘えんな!」
すると神木の前に、神隠しにあっていた被害者が現れた。
祓魔師達が駆け寄って助け起こすが、全員怪我もなく無事なようだ。
辺りはしいん。と静まり返っている。
説得、というかねじ伏せたらしい。夜は燐に話しかける。
「なんて言ってた?」
「ああ、あいつ最初は寂しかっただけだったらしいけど。
人を浚ったり、物を壊したり。駄々をこねる度に色々な要求が通るから、
最後の方は狙ってやってたんだってさ」
「なるほどね、だから甘えるな、か」
「まぁもうやらないだろ。でも信仰ある人に加護は与えるらしいから、
祭っておいて損はないぞ」
クレーマーと言える者の目的は、自分の要求を通すことである。
しかし、クレーマーは位のある者に対応されると途端に萎縮する傾向がある。
メフィストがここまで読んで燐を派遣したかは定かではないが、被害もそれほどなく終わり方は見事だ。
しかしこのやり方は格上とされる超上級悪魔がやるから成功するのである。
日本支部においてはおそらく燐かメフィストくらいしかできないだろう。
「あのおっさん自分が行く面倒だったから俺に言ったんだろ!!」
「否定はしないな、まぁ無事終わったんだから怒るなよ」
「そうだよ兄さんのお陰で終わったんだし。人質も無事だったんだからさ」
二人に説得されながらも燐は顔を赤くして怒った。
「俺が怒ってるのはそこじゃねぇ!!」
「じゃあなんで?」
「こ、この着物ッ着たくなかったんだよ!」
「ゴージャスだけど似合ってるよ?」
「まぁ確かに、格好いいぞ」
「だって・・・アイツが!」
燐は言葉を続けようとして押し黙った。
夜と雪男が首を傾げる。雪男が燐をじろじろと見た。なんであんなに怒ったのだろう。
望まない着物を着せられたからだろうか。しかしそれだけではないような気がする。
燐は我慢できないといった風に訴えた。
「メフィストの野郎!着物は下は穿かないもんだって、俺のトランクス盗ったんだよ!!」
普通に着るだけなら問題なかったのに。
メフィストはあろうことか燐の穿いていた下着を奪ったのだ。
つまり、今燐は。
自然と雪男の視線が燐の下半身に向いた。
燐は顔を赤くして震えている。夜は奥村兄弟のやりとりを首をかしげて見た。
「着物着たら下は穿かないんじゃないのか?」
「誰ですかそんなこと言ったの!」
「フェレス卿」
「あの悪魔!!」
人間の常識を知らない夜まで丸め込んでいるなんて。
今時穿かない人間は一部しかいない。そのマイノリティを常識だと教え込んでいる。
雪男はメフィストの恐ろしさに戦慄した。
このままでは夜も燐もメフィストの良い様に教育されてしまいそうだ。
恐ろしい事実を知って、雪男は言葉も出なかった。
そして話を聞いていたのか周囲の祓魔師がひそひそと燐を指さしている。
燐にはそれが、穿いていないんですってよ。ノーパン。
などという言葉に聞こえて、耳を塞ぎたくなった。
雪男はリーダーの男に声をかけると、燐の手を引っ張って階段を下りていく。
夜はその後をついていく。
「とにかくどこかのコンビニ行こう。落ち着かないでしょう」
「う・・・うん」
「悪い燐、そうだとは知らなくてな。
着替えの時の謝罪の意味も込めて俺が下着買ってやるよ。早い方がいいよな」
夜はそう言うと、燐をひょいと抱えあげた。そのまま悪魔の跳躍力で飛んでいく。
「わああああ!夜、待て!」
「近くのコンビニまで一キロちょいあるから、雪男!先に行っておくぞ!」
「夜さん、待って!兄さん!」
雪男は飛んでいく二人を見送って、呆然としていた。
「・・・着物の裾が、はだけてて」
見えていた。抱えられているとはいえ、飛んだり跳ねたりしていたら当然だろう。
兄が公然猥褻罪で捕まらないためにも、急いで追いかけなければならない。
そして夜に悪魔に教えられただろう間違った知識を正さなければ。
雪男はため息をついて、二人を追いかけるために走り出した。
まず手始めに教えるのは、メフィストの言うことを信じるな。という事からだろうか。
≪ 十人目に騙された | | HOME | | 志摩廉造の心は密かに荒ぶっていた ≫ |