青祓のネタ庫
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青い月が灯る夜空を、一枚のカーテンが遮った。
閉まる音は部屋の中を外界と遮断する為の合図だ。
メフィストはおかしくてしょうがない、という風に笑う。
「やっと二人っきりになれましたね奥村君」
視線を窓から部屋へと向ければ、そこにはメフィストから貰った青い着物を羽織った燐がいた。
團服は着ておらず、プライベート用のラフな格好だ。Tシャツにズボン。その上から羽織る青い着物。
不思議な格好だが、そのアンバランスさがなぜだか似合っていると感じた。
燐は、年齢で言えば二十歳を超えている。しかし、その体は十五歳の時から時を止めている。
成長していないわけではない。ただ悪魔の成長が人間のそれと比べてとても緩やかなものであることは確かだ。
その証拠に五年たった今でも、十五歳の時と同じ風貌を残している。
悪魔の旬は、人間でいう十六。その上、汚れのないうちに腹に納めることが悪魔の作法だ。
メフィストは常々実に惜しいと思っていた。もしも燐が十六のままで姿を止めていればと思うと。
喉が思わず鳴ってしまう。だがそうなれば他の悪魔が黙ってはいなかっただろう。
旬の香りにつられて今以上の悪魔がこの学園に押し掛けていたのかもしれない。
そう考えれば、十五で時を止めたのは一種の防衛反応だったのかもしれないとさえ思えてくる。
燐はメフィストの言葉に首を傾げた。
「なぁ最後に教えてくれることってなに」
燐はあくびをする。眠いのだろう。
今の時間ならば燐は寝ていてもおかしくはない。メフィストは指を鳴らした。
「とても、気持ちのいいことですよ」
燐の目の前が煙に包まれ、次の瞬間には燐の体は横たわっていた。
とっさに手をつけば、手が沈みこんだ。とても柔らかい、高級なシルクのシーツの感触。
なぜ自分はここにいるのか。起きあがろうとする体にのし掛かるものがいた。
「メフィストッ」
燐の体勢は、メフィストに押し倒されていると言っても過言ではない状況だった。
視線を逸らせば、先ほどまでいた理事長室の明かりが部屋の遠くの方から覗いていた。
ここはメフィストの寝室だ。カーテンは閉められ、スタンドの明かりがぼんやりと照らすだけの空間。
なぜこんなことになっているのか、燐には検討がつかない。
「離せ!」
「言ったでしょう、私の夜伽話。ですよ。ああ正確には伽をするのは君ですがね奥村君」
「よ・・・とぎ?なんだそれ、おとぎ話?」
「それに近いですね、しかしファンタジーではありません。肉と欲にまみれた即物的なお話ですよ」
メフィストは燐の着ていた羽織をはだけさせ、Tシャツをたくしあげた。
驚いたのは燐だ。なぜメフィストの前で体を晒さなくてはならないのか。
燐は必死に抵抗した。しかし、体にうまく力が入らない。
「なん、で」
「暴れることも想定内ですよ、私がなんの準備もなく貴方をベッドに招くとでも?」
メフィストが指を鳴らすと、部屋全体に青い魔法陣が浮かび上がってきた。
その陣はベッドに近づくにつれて糸のように組みあがり、最終的に燐の体を覆う鎖のようになっていた。
先ほどまで見えなかった、青い鎖。それが燐の体を捕らえていたのだ。
燐は炎を出して逃げ出そうとするが、それも鎖の拘束によるものだろうか。
炎を出そうとすれば途端に体が硬直してしまう。
強ばった体を愛おしむように、メフィストは燐の体のラインをなぞると、
ズボンに手をかけて下に引きずり下ろしてしまう。
残るは、下着だけとなってしまった。
燐は唯一動く口でメフィストを罵った。
「この変態理事長ッ!」
その言葉すらおもしろいと言ったふうにメフィストはおどけて言った。
「PTAを敵に回すのも悪くない」
見た目十五歳の燐を手込めにする学園の理事長。
これで正十字学園の制服を燐が着ていれば完璧だっただろう。法を犯す行為。
悪魔としては最高の名誉ではないか。
そしてメフィストは燐の下着を奪い取り、その体を貪る為に自分の上着をはぎ取った。
部屋からは、二人分の体重を受けて軋むベッドの悲鳴と。燐の悲痛な声が響きわたった。
「―――ああ、教育委員会が見てるッ」
「その口を閉じなさい志摩君!!!」
雪男が近くにあった本の角で志摩の頭を殴り飛ばした。
志摩の持っていたノートが、ばさりと手から落ちて床に広がった。
そこには燐のお世辞にも上手いとは言えない字で、台詞が書かれている。
勝呂はそれを拾い直すと、ぱらぱらとめくって内容を確認した。
これは、燐が図書館で読んでいた資料。その写しだ。
「あいつ、律儀に俺の言うたこと守ったんやなぁ・・・それにしても、内容がえげつないわ」
燐が勝呂に聞いた、暗記をするための方法。朗読して、書いて覚える。
燐はきちんとその言葉を守っていたのだ。
勝呂は、図書館で燐が見ていた内容をほんの少しだが覚えていた。
その記憶は、最終章に関連するものだったらしい。
夜伽、という単語を見て勝呂はぎょっとしたが、
淫魔相手の祓魔作業もある仕事柄故、深くは追求しなかったのだ。
悪魔を罠にかけるために、そういうふりをすることがあるからだ。
しかし今では何故追求しなかったのかと悔やまれる。
事の始まりは、燐が夜になっても戻らないという雪男からの連絡だ。
昼間に豹変した燐の態度を見ていたので、何かあったのだろうと思ってはいたが、雪男と話してその訳がわかった。
「実は、兄と少々喧嘩をしてしまいまして・・・
普段ならなんてことはないのですが、今回は長引いてしまっているんです」
「ああそれで・・・ん?となると奥村は今先生とは別行動なんですよね」
「ええ、無視されていますし」
「じゃあ図書館で見たあの資料は一体なんやったんや―――?」
勝呂は燐が最近任務で淫魔関係の仕事を扱ったかを問いただした。
しかし雪男の記憶では燐はそんな仕事をしていた覚えはない。
では任務の資料と思われるあの冊子にふりがなをふった人物は一体誰なのだろうか。
燐は試験に合格したとはいえ、まだ勉強は苦手である。
仕事で渡された資料も、たまに雪男がふりがなをふってやって、なんとかこなしているような状況だったのだ。
一体誰が燐に資料を渡したのか。そこが今回の事件の肝の部分だ。
騎士團は燐に対しては昔よりは緩やかになったとはいえ監視の体制を解いてはいない。
燐がそういった性的なこと。つまり子供を残すようなものには極力触れさせたがらない。
魔神の落胤が淫魔に手籠めにされる状況など、騎士團にとっては悪夢だろう。
燐以外の魔神の落胤ができては一大事なのだ。
急いで雪男と合流した京都組は兄弟が住まう旧男子寮で燐の不可解な行動を改めるために、
燐の荷物を片っ端から捜索した。いわゆる家探しである。
燐の免許証や仕事道具が転がっていることから、一度は寮に帰ってきたらしい。
しかし、また出ていったようだ。
「ウホッ、女子校生モノとか良い趣味しとるわ奥村君」
「志摩さん、そんな個人さんのプライベートに関わるもん探さんといてください!不謹慎や!」
子猫丸は志摩の持っていた燐の秘蔵書を元の位置に戻した。しかし志摩の手つきは卑猥である。
個人の秘密を探るなど愉快以外の何物でもないだろう。
志摩廉造は即物的な男である。さっそく次の獲物へと手を伸ばした。
「ん、このノートは奥村君の字やな・・・」
志摩が見つけたノートをちら見すると、その内容に唖然とした。
そこには昼間、燐が志摩たちにとった行動がそのまま書かれていたのだから。
これは劇の台本だ。喜劇か悲劇かは最後まで見なければわからない。
志摩はみんなの前で台本を朗読し始めた。
それが、先ほどの内容である。
雪男は気分が悪くなったようだ。鳥肌まで出ている。当然だ。
実の兄が悪魔の手込めにされている台本など、気分がいいものではないだろう。
勝呂は志摩の手から台本を奪って、内容を確認した。そして驚愕する。
「志摩、お前この台本・・・理事長が奥村を理事長室に招くとこまでしか書かれとらんで。
あとは『暗転☆』だけや。さっきのはまさか・・・」
「ええ、俺の鋭意捏造創作ベッドシーンです。よくできてますやろ」
「志摩さん、最低や!よく何食わぬ顔で同期の悲劇を朗読できたもんやな!」
「流石の僕も騙されましたよ・・・」
志摩は得意気だが、周囲はどん引きである。
エロに対しては妥協を許さない男だ。だが志摩はメフィストの台本の意味を忠実に再現したに過ぎない。
「暗転、なんかで終わらせるってことはもっとすごいこと考えとるってことやろ。
暗転、の二文字にはそれこそ無限の可能性が秘められとるわ。理事長の毒牙は俺にも想像つかんで。
こうしている間にも奥村君は理事長の腕の中で悲鳴を―――」
「だから問題はそれを阻止するためにどうするかでしょう!」
雪男は再度志摩を怒鳴った。
流石の志摩も、今回は口を閉じる。雪男の指が撃つべき相手を捜して何度もトリガーを引いていたからだ。
今はあまり刺激するべきではない。
もしも燐がそういった目にあっていたら、それを慰めるのも事態を収拾させるのも雪男だろう。
胃が痛くなるのも無理はないし、その犯人を八つ裂きにしたいと思うのも普通の感情だ。
にしても、以前後見人だった人物がその子供が成人した末に手を出すとか、AVみたいやんなぁ。
と志摩廉造の心は密かに荒ぶっていた。もちろん、表には出さなかったが。
「こうなったら理事長室に乗り込むか・・・ですね。おそらく奥村もそこにおるはずですし」
勝呂は雪男に言葉をかける。雪男もこくりと頷いた。
時計を確認すれば、時刻は夜の十一時を指している。
いつもなら燐は寝ているはずの時間だ。その時間になっても帰ってこないということは。
イヤな予感しかしない。
雪男は銃を構えた。勝呂も、弾を装填する。
子猫丸は錫杖を持ち、志摩はカメラを構えた。
「志摩さん」
「わかっとりますよ」
カメラをポケットに納めて、志摩も錫杖を持つ。
同期が悪魔にハメられようとしている事実を黙認するなど、断じてできない。
兄は、いい仲間を持ったな、と雪男は涙ぐみそうになった。
しかし、台本を書き移して覚えていたとしても、意味を理解していないならそれは無意味だ。
おそらく、燐はメフィストの暗転☆の意味を理解してはいなかっただろう。
たぶん、ふりがなもなかったので「あんてん」とは読まずに「ほし」とだけ読んでいた可能性もある。
そうでなければのこのこ理事長室に行くわけがない。
雪男は無事に連れて帰ってこれたら、もう一度漢字を教え込もうと心に決めた。
燐にとっては地獄の勉強合宿はもうひとつの悪夢だろうが。
「でも待ってください。俺らだけで理事長に太刀打ちできるんですかね?」
志摩はもっともな質問をした。メフィストが本気を出せば、おそらく理事長室に入ることすらできないだろう。
メフィスト=フェレスは空間を支配する悪魔だ。自分のテリトリーに敵を招くとは考えにくい。
ではどうするか。雪男はしばし思案した。
そして、苦渋の決断。といった風に眉間に皺を寄せて答えた。
「僕に、考えがあります」
雪男は空中をちらりと眺めた。
***
メフィストは上機嫌で寝室の寝具を整えていた。
いつもならスリーカウントでどうとでも帰れるのだが、今日に限っては手ずから整えたい気分だったのだ。
以前から狙っていた末の弟を今夜、思うままに貪れる。
そう考えると胸が高鳴ってしょうがない。
弟はきっとあらん限りの罵声と抵抗をメフィストにするだろう。
自分はそれをねじ伏せて、思い知らせてやるのだ。
奥村燐が、誰のものであるかを。
メフィストは一通り寝室を整えると、じっと目を凝らした。
寝室には、よく見ないとわからないが、魔法陣が敷かれていた。しかも部屋全体に。
これは燐を捕らえるための魔法陣だ。志摩の妄想が現実のものとなっている。
メフィストは時計を見て、そろそろかと顔をにやけさせた。
丁度タイミング良く、理事長室のドアがノックされる。来たか。獲物が。
メフィストは舌なめずりをしながら、ドアに向かった。途中、くしゃみを一つしてしまう。
「誰かが、噂でもしてますかね」
もしかしたら、兄の危機に気づいた雪男がなにがしかの行動を起こしているのかもしれない。
だが、今夜は人間がいくら頑張ろうと無理だ。
今宵の為に理事長室と寝室への空間はねじ曲げているし、鍵を使ってもたどり着けないようになっている。
燐が一度メフィストの寝室に入ってしまえば、空間を支配しているメフィストが許さない限り出ることはできない。
その間に、メフィストの手によって何度果て、幾たびも犯されるのだ。
生け贄の羊のように。
メフィストはその想像を巡らせて、扉を開けた。
獲物が内側に入ってきた。メフィストは目を開いた。
「若君ッ!!!こちらにいらっしゃるのですか!?」
ドアを蹴り破って、白鳥ことアスタロトが入ってきた。
メフィストはとっさに結界を張ろうとするが、鼻がむずむずしてそれどころではない。
アスタロトは魍魎をメフィストの部屋中にぶちまけた。メフィストはマスクを取り出して、装着する。
目がかゆいのでゴーグルも忘れない。
そうしてようやくアスタロトと向かい合うことができた。
「おのれ汚らしい!この私のテリトリーを不浄で汚すとは!」
「それはこちらの台詞だメフィスト=フェレス!
若君をどこに隠した!場合によってはお前とて許せぬ!」
理事長室に繋がる廊下から、雪男はひょっこりと顔を出して中の様子を伺っていた。
もちろん、アスタロトがいるのでマスクはきちんとつけている。後ろに控えていた勝呂たちも同じ様相だ。
雪男は、部屋の中に漂っていた魍魎に燐がメフィストに手込めにされそうなことを話した。
魍魎はアスタロトの眷属だ。アスタロトは魍魎を介して、視界や言葉を盗み見ることができる。
アスタロトが乗るかどうかは賭けだったが、上手くいったようだ。
「しかし、八候王同士の同士討ち狙うとか先生も博打打ちますねぇ」
「ええ、どう収束するかは正直僕にもわかりません」
部屋の中では、すさまじい魔力のぶつかり合いが起きていた。
たぶん、メフィストが空間を切り離していなかったら、部屋ごと。いや建物ごと吹き飛んでいただろう。
アスタロトは白鳥という人間に取り憑いているので、戦いにおいてはやや不利だ。
メフィストのように何百年もかけて馴染んだ体を持っているわけではない。
ようは、時間を稼げればそれでよかった。
雪男は叫んだ。
「兄さん!いるなら返事してくれ!」
部屋の中に向かって叫ぶが、返事はない。もしかしたら、気絶でもさせられているのだろうか。
それならばこの部屋の中に踏み込まなければならない。
「アカン先生!今行ったら人間は死んでまう!」
「しかし、このまま見ているわけにもいかないでしょう!」
部屋の外にいても、漏れ出す瘴気と魔力で息が詰まりそうだ。
人間がこの中に入るなど自殺行為だ。勝呂は必死に雪男を止めた。
雪男になにかあれば、一番悲しむのは燐だ。でも、このまま見ているわけにもいかない。
雪男が覚悟を決めていたところで、この場面にふさわしくない、電子音が響いた。
「なんや?誰の携帯の着信やろ・・・」
「あ、僕です。ちょっと失礼」
雪男は携帯に出た。魔力の渦のせいで電波がやや飛んでいるが、確かに言葉が聞こえた。
「雪男、たすけて」
それは、燐の声だった。
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