青祓のネタ庫
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燐は祓魔の資料が保管されている図書館で、本を読んでいた。
勝呂は燐の姿を見て驚愕のまなざしを向ける。あの奥村燐が勉強をしている。
感動で目の前がぼやけてしまった。
燐が勉強しているところなんか、命がかかっていた祓魔師試験の時以来だった。
しかし、感動している場合ではない。
勝呂は燐の前に近づいて、肩を叩いた。
「珍しいな、お前が勉強しとるなんて」
「うん」
燐は本を捲って、一旦閉じた。そして一冊の冊子を鞄の中から取り出す。
勝呂はその冊子を興味深そうに眺めた。表紙は白いし、この図書館の蔵書でもなさそうだ。
しかし燐はその冊子を真剣に読みふけっている。
閉じた本の表紙には、やさしい暗記の仕方。と書いてあった。
なにを覚えようとしているのだろうか。
ちらりと冊子の隙間から除いた文章にやや驚きながら、勝呂は燐に問いかけた。
「奥村、なんやそれ」
「ああ、暗記しなきゃいけない資料なんだ。お前暗記得意なんだよな?
なんかいい方法ないか?」
「そんなもん、覚える他ないわなぁ・・・そうや、読んで書いてを繰り返すと
案外頭に入るもんやで」
「ふうん、じゃあ後で書いてもみるわ。ありがとな」
「礼はいらんて、頑張りや」
「うん」
勝呂はこれ以上邪魔してはいけないだろうと思い、燐の傍を離れる。
燐は冊子から目を離そうとしない。
もしかしたら、次の任務の資料なのかもしれない。
ならば邪魔してはまずいだろう。
勝呂はちらりと見えた文章を思い出す。しかし祓魔の仕事を生業にしていると
見かけることもある文章なので特に突っ込みはしなかった。
間もなく。図書室の扉が開いて、雪男が入ってくるのが見えた。
勝呂はぺこりとお辞儀をする。雪男も同じ動作を返した。
今は同じ祓魔師だが、雪男に対してはやはり講師と教え子の立場という感じになってしまう。
もしかしたら、さっきの資料は雪男が手ずから作った兄の為の資料なのかもしれない。
燐は未だに漢字を苦手としているので、読み仮名を振った資料を雪男が作っていても
おかしくはない。愛されとんなぁ。と勝呂はしみじみと感じ入る。
違和感に気づいたのはまもなくだった。
雪男は燐に気づきながらも、すたすたと本棚の方に行った。
燐も雪男に気づきながらも、資料から目を離さない。
いつもなら挨拶くらいは交わすのに。
勝呂は首を傾げながら、奥村兄弟を見つめていた。
喧嘩でもしたのだろうか。それならばいつものことだ。放っておくことにしよう。
勝呂はその選択が間違いであったと、後で気づくことになる。
***
勝呂が上司から任務を言い渡されたのは、図書館で奥村兄弟の冷戦を見た数日後のことだった。
祓魔対象の悪魔は、腐属性の上級悪魔。森で瘴気をまき散らし、木々を枯らしているらしい。
今はまだ山深い場所で暴れているだけなのでいいが、数キロ先には町があった。
人間の住む場所までたどり着けば、被害は甚大である。
悪魔が町に辿りつくまでにケリを付ける。時間制限付の任務だった。
勝呂はすっかり手に馴染んだ銃を持つと、森の中へと踏み入った。
胞子が飛んでいるので、マスクも忘れない。
木々は枯れ、胞子が飛び交い、足元の土は腐っている。
どこかの映画の話ではないが、マスクを外せば5分で肺が腐ってしまいそうな有様だ。
「ひどいな・・・」
不浄王の時を思い出す。あの時もこんな状況だった。
勝呂は同僚の祓魔師と共に、目当ての悪魔を目指した。
同僚の祓魔師が声を上げる。勝呂はすぐさまその場にしゃがみこんだ。
どうやら、目当ての悪魔の進行方向へと回り込むことができたようだ。
注意深く、その姿を確認する。その悪魔は、キノコのような姿をしていた。
キノコの根本から無数の触手が伸び、それが足のように動いて前に進んでいるようだ。
キノコの笠の部分には人型を象った胞子の塊がくっついている。
ぶつぶつと言葉を放っていることから、あの胞子の塊には意志があるのだろう。
悪魔の核となる部分のようだ。
勝呂は同僚と目配せをして、その胞子部分に銃を向けた。
決めるなら今だ。後方の部隊とも連絡を取り合い、火力で一気に叩くことを決める。
「今やッ!!!」
勝呂の合図と共に、火炎放射器と銃口が火を噴いた。
キノコ型の悪魔は一気に炎に包まれる。核となる部分を打ち抜き、身体を炎が焼き尽くす。
辺りには木々が焼ける匂いと、悪魔が焼き尽くされる異臭が立ち込める。
吐き気がするほどの匂いだが、悪魔討伐現場ではよくあることだ。
悪魔の姿は、炎に包まれて徐々に見えなくなってきていた。
おそらく身体が燃え尽きたせいで、小さくなっていっているのだろう。
勝呂は悪魔の進行方向に目を向ける。まだ遠いとはいえ、この先には町がある。
ここで食い止められてよかった。そう思った矢先、同僚の悲鳴が聞こえてきた。
「う、うわああああ!!」
見れば、触手に足を取られて宙吊りにされているではないか。
勝呂は驚きながらも、その触手を銃で打ち抜く。
地面に落下した同僚を支えながら、なんとかその場から逃げだした。
すると、先ほどまでいた場所から無数の触手が針のように生えてきたではないか。
一歩遅ければ串刺しになっていただろう。ぞっとしながらも勝呂は次の手を考えた。
近くの地面に銃弾を撃ち込み、聖水をばら撒けば、触手の進行は止まった。
勝呂は同僚に声をかける。
「大丈夫か、あれはたぶんさっき焼いたキノコの触手やろ。まだ生きとるみたいや」
視線を燃える悪魔の方に向ければ、焼いたはずの悪魔の体が地面から再生されている最中だった。
触手とは、根のようなものだったのだろう。キノコの形をしていることから菌糸とも言えるかもしれない。
菌糸がより集まって、幹をつくり、笠を象る。その笠の上には胞子でできた人型がケタケタと笑っている。
不浄王の時もそうだったが、腐属性の悪魔は再生するから厄介なのだ。
勝呂が舌打ちして、カルラを呼び出すべきか考える。
しかしその召喚の間は自身が無防備になってしまうので、騎士の前衛が必要だ。
今いる同僚は、医工騎士だった。勝呂は今回の任務で竜騎士として参加している。
騎士を持った称号のものはこの部隊には少数だ。
それも騎士がメインではなく、他の称号と併用している場合が多数だろう。
腐属性の悪魔は、遠距離からの攻撃が普通だ。
極少数いる悪魔とのハーフなら別だが、人間があの瘴気の中生きれるはずがない。
よって任務の際には前衛の騎士はあまり入れないことが慣例となっていた。
勝呂は唇を噛む。ここに奥村がいれば。そう思わずにはいられない。
奥村燐は騎士としてはおそらく最高の素質を持っている。
悪魔としての身体能力に、瘴気への耐性、加えて全てを浄化する青い焔。
まったくもって、最強の同期を持ったものだ。しかし、その同期に頼るわけにはいかない。
勝呂は燐に負けたくはなかった。今、自分にできることをやらなければならない。
勝呂がカルラ召喚の陣を描こうとしたとき、声が聞こえた。
『足止めは、俺がする』
それはよく知る声だった。勝呂はハッとするが、カルラの召喚に力を入れることにした。
同僚に声をかける。
「悪い、しばらく俺無防備になるわ。なんとか持ちこたえてくれ」
同僚は勝呂の言葉に動揺しながらも、手に聖水と銃を持った。銃を持つ手が不恰好なのは、
竜騎士の資格を持っていないからだ。それでも剣とは違って引き金を引きさえすれば銃は打てる。
間違って、俺に当てんなや。と願いながら勝呂は詠唱に入った。
ほぼ同時に、悪魔が動き出そうとしていた。触手を動かそうとしたのだろう。
ずずず、という地面を削る音があたりに響いていた。音は、すぐに止んだ。
悪魔の目の前には人影があった。その影は青かった。
視界を遮っていた胞子が風で消えていく。
そこには、祓魔師姿に青い着物を羽織った燐がいた。
燐は悪魔に声をかける。
「静まれ!下賤なる者よ!!」
その声を聞いて、勝呂はぎょっとした。あの燐が難しい言葉を使っている。
驚きだ。図書館で勉強した成果だろうか。
悪魔は燐の声に反応して、触手を燐へと伸ばした。
その触手は燐にたどり着く前にあっという間に燃やされてしまう。
燐は青い焔を全身に灯して、冷徹な瞳で悪魔を見た。
悪魔が慄いたことが、感覚で分かった。悪魔は恐れている。
「ここでお前がしたことを俺は許すつもりはない。
大方腹を満たすために町を襲おうとしたのだろう。
人間に害を成し、森を壊し、お前が物質界に与えた損害は命を持って贖うがいい」
悪魔はなにかを燐に訴えていた。しかし、燐はそれをばっさりと切り捨てる。
「俺の名前を言ってみろ」
悪魔はその場に傅いて、言った。若君様、と。
燐は満足そうに笑った。
そして、勝呂の詠唱が終わり、カルラが召喚される。
カルラの炎は、燐の目の前にいた悪魔を焼き尽くす。
不死鳥の炎だ、重火器の炎とは性質が違う。
燃える炎に染められて、燐の羽織がはためく。
燐は手を翳して、カルラを。勝呂を助けるように青い焔を繰り出した。
「焼き払え!!」
まるでどこぞの殿下のような口ぶりだが、今の燐の姿から見ると妙に様になっていた。
カルラはこくりと頷いて、燐の焔を増長させるように炎を燃やす。
燐の声と共に、森が燃えていった。
その日、数キロ先にあった町では森の中で青と赤の炎が燃えている姿が見えたという。
全ての胞子が燃えて浄化された後、燐の姿はどこにもいなくなっていた。
次に目撃したのは志摩だった。
志摩が任務にあたっていると、廃ビルにいたゴーストの親玉に命令している悪魔がいた。
「消えろ、目障りだ下級が」
「申し訳ありません、若君様」
次に目撃したのは子猫丸だった。
子猫丸が任務にあたっていると、古い神社に住み着いていた化け狸を踏みつけている悪魔がいた。
「俺に従え」
「若君様の仰せの通りに・・・」
そしてその京都組の遭遇した出来事は勝呂によって集約され、雪男への直談判へと繋がった。
***
「先生!奥村がおかしなったんです!悪魔の親玉みたいになったんです!」
「今は先生じゃないですけど・・・って、え?なんですかそれ?」
雪男は首を傾げた。旧男子寮では冷戦が続いているが、普段と変わったことはないように思えた。
しかし、勝呂達の説明を聞いて、徐々に眉間にしわを寄せて考える。
兄さん、一体どうしてしまったんだ。
雪男も任務があるため、ここ最近はすれ違いが続いていた兄弟だ。話もまったくしていないに等しい。
会っても、図書館のように無視し続けるのが常であった。雪男としてもここまで長い喧嘩は初めてだった。
しかし昨日寝ているところを見たが、特に様子は違わなかった。
燐の豹変は任務での時だけということだろうが、学生時代とは違って今は社会人である。
オフの日の方が少ない。つまり、燐はほとんどの時間を悪魔の親玉みたいにして過ごしていることになる。
これは由々しき事態だ。騎士團の上層部に見つかれば反逆罪と見られかねない。
雪男と勝呂達が燐を探しに行こうとすると、ちょうど任務帰りの燐が歩いている姿が。
そして、その背後にいるものたちに雪男たちは驚愕した。
燐の後ろには、またもや取り憑かれている白鳥と、無数の悪魔が群がっていたのだ。
「寄るな、穢れる」
「ああ、若君。ようやくご自分の立場を理解されたようで私は大変うれしく思います。
若君から発せられる言葉すべてが私の身に染みわたります。なんという甘美・・・なんなりとご命令ください。
我らは貴方様の手足です。この身を焼いても我らは貴方に忠誠を誓いたい。足を舐めさせて下さい」
「さりげなく自分の欲望を混ぜるなッ」
燐は背後に群がるアスタロトにも、悪魔にも冷たく帰れと命令していた。
しかし、その命令すら今まで貰えなかったのだ。
燐に傅く悪魔にとっては、命令も冷たい視線も、全てがご褒美である。
雪男は悪魔に命令する燐の前に立ちふさがった。
「なにしてんだよッ」
そして、そんな雪男を燐は無視した。
無言で立ち去って行く兄の姿を、雪男は呆然と見つめていた。
喧嘩をしていた自覚はある。でも、燐にここまでの対応を取られたのは初めてだ。
勝呂達も、普段と違う燐の姿になにも言うことができなかった。
まるで、燐が遠いところへ行ってしまったように四人は感じたのだ。
***
雪男たちからも、アスタロト達からも逃げ出して、燐は学園の隅に設置されている
ベンチで、メフィストに連絡を取っていた。
手には、図書館で読んでいた冊子がある。
「メフィスト、お前の台本すごいな。雪男たち呆然としてたぜー」
「でしょう、なにせ私の構成は完璧ですからね☆貴方用に考えて、
ルビまで振った『悪魔としてグレる方法』ですから!」
燐は中学時代に既にグレている。その様子を知っている雪男からしたら、
生半可なグレ方では驚かすことはできないと燐は考えたのだ。
そして、悪魔としての振る舞いに力を入れるグレ方を取ったのだ。
燐は、魔神の落胤である。悪魔にとっては神にも等しい存在だ。
誰も逆らったりしないし、迷惑をかけても悪魔だからかまわないというわけだ。
それでも燐は内心すごく悪いことをしている自覚があった。
だから、雪男にちょっとだけ思い知らせることができたら、すぐにやめようと考えていた。
「なぁメフィスト、台本の1章『台本の暗唱』2章『悪魔としての権威の示し方』
3章『下僕の作成』もできたし、4章から5章もほぼできるから、そろそろ終わりにしたいんだけど」
「いいですよ☆では今夜、私の部屋に来て下さい」
「わかった、最終章『メフィストの夜伽話』ってあるけど、これなんて読むんだ?ここだけふりがなないんだけど」
「それは今夜教えて差し上げますよ、夜は長いのですからじっくり・・・ね」
メフィストは燐をハメたのだ。兄弟の不仲に乗じて、燐を美味しく頂いてしまおうという魂胆である。
見た目15歳の燐に手を出そうというのだから、教職に就く身としては限りない冒涜だ。
しかし、メフィストは悪魔であるのでそんなタブーは関係ない。
そんなことは露知らず、燐は携帯電話を切って、台本を閉じる。
燐の心の中には、雪男や勝呂達の呆然とした表情が浮かんでは消えていた。
悪いことしたなぁ。
そう思っていても、してしまう時がある。それがグレるということである。
それでも、今夜で終わるようだからいいかと燐は考えた。
燐は自分の貞操が狙われていることに、これっぽっちも気づいていなかった。
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