青祓のネタ庫
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
≪ 長男は弟をハメるのがお好き | | HOME | | お立ち寄り下さりありがとうございました! ≫ |
「で、兄さんは僕に何か言うことはないのかな?」
雪男は椅子に座って膝を組みながら床に正座する燐に向かって言った。
なぜこんな状況になっているのだろうか。
二十歳を超えるまで、つまり塾に通っていた当時ならば
課題忘れやらテストの点やらでお仕置きと称してこんな扱いを受けたことはあった。
むしろ今日の床に正座はぬるい方である。
正座した上にバリヨンを乗せられたり、床にぶちまけた釘の上で足踏みさせられたりした頃に比べれば。
燐はちらりと雪男の顔を見上げた。
雪男は無表情だった。怒った顔はしていない。
それが余計に燐の額に冷や汗をかかせる原因となっている。
これは、確実に怒っている。
それも心の底から冷え込んだ怒りだ。
おそらく塾講師時代にやった数々のお仕置きが行われていないのは、
怒りで道具を準備する暇がなかったからだと思われる。
さて、雪男は何の件について怒っているのだろうか。
燐は内心必死で考えた。何か言うことがないのか。と雪男は言うが、
言うべきことがないから黙っているのである。それのなにがおかしいのだろうか。
しかし雪男はそんな黙っている燐の態度も気に食わなかったらしい。
「なに?庇ってるつもりなの?それなら僕にも考えがあるよ」
「いやちょっと待ってくれ雪男。
申し訳ないんだけど俺お前が何に怒っているのか全然わかんねぇ・・・」
燐は素直に告げることにした。
だって燐は頭で考えてもいい答えが出てくるタイプではないのだ。
それなら素直に言った方がまだましだ。
むしろ言い訳した方が事態が悪化しそうである。雪男はため息をついた。
「そう、兄さんにとっては忘れられるようなことなんだね。
この前の任務の時、自分がフェレス卿に言った言葉。覚えてる?」
「この前・・・」
燐の脳裏にあの悪夢が浮かんだ。
ジュースを買おうとして警察に補導され、アスタロトに付きまとわれ、
挙げ句の果てにメフィストに言ってしまったあの言葉。
燐はサァ、と顔色を青く染めあげた。その色はどこか燐の青い炎の色と似ていた。
「な、なんでお前そのこと知って・・・ッ」
「わからない?僕がフェレス卿に兄さんが任務に来ないって連絡したからだよ。
兄さんが合流して、任務が終わった後にね、フェレス卿から連絡があったんだ。
メールでね。しかもデコレーションメール。デコメだよ。お祝いって書いてあったな。
題名はこう。祝、末の弟がお兄ちゃんと呼んでくれた件について。
内容は兄さんがどういう経緯でフェレス卿をお兄ちゃんと呼んだか。
その全てが事細かに詳細に書かれてあったよ。なんなら見る?」
雪男が自分の携帯電話を開こうとした。燐はそれを止めた。
「やめろ思い出したくもない」
「自覚はあるんだ?自分がまずいことしたって」
「お前・・・あん時すんげぇ大変だったんだぞ!」
燐はもう成人済みの大人だ。しかし外見は未だ高校生で通用する。
それもこれも十五歳で悪魔として覚醒してしまったからなのだが、
こればっかりは燐としても対応しようがない。
今では雪男と歩いていると雪男の方が完全に年上に見られるような有様だ。
いくら頑張ったとしても、燐の外見がすぐ変わるわけではない。
そんなどうしようもないことで怒っているのか。燐は雪男に怒った。
「俺が補導されたことで怒ってんのかよ!
あれはもう仕方ないだろ!俺だって好きでこんな若いわけじゃねぇ!」
「・・・そうじゃないよ、何でわからないかな!!」
雪男は机をバン、と叩いた。普段冷静な雪男にしては珍しいことだ。
燐は目を見開いた。雪男は燐に怒鳴りつけた。
「兄さん、フェレス卿のことを兄と呼ぶなんてどうかしてるよッ!!」
燐はびくりと肩を揺らした。
雪男の先ほどの説明と、燐はあの時自分で言った言葉を思い出す。
おにいちゃん。
あれは別にそんな変な意味で言ったわけではない。
あの警察官は燐の保護者を要求していたのである。
そして目の前に以前後見人をしていた人物が現れた。
メフィストと燐の関係を一言で表すなら、この言葉ほど的確な言葉はないと思う。
悪魔の家庭は人間に一言で説明できるようなものではない。
九人の異母兄弟。その末弟が最高権力者である神の跡継ぎ。
悪魔の世界を知らない一般人からしたらどこのファンタジー設定だと言われてしまうようなレベルだ。
メフィストと燐は同じ魔神を父に持つ虚無界の超上級悪魔である。
超上級悪魔がまさか警察に拘束されて動けなくなるなんて、
もはやコントにしか思えない状況だった。
燐の精神も、アスタロトの言葉と警官に追いつめられて正常だったとは言いがたい。
そのことについて、雪男はわかっていない。
燐はキレた。あのとき自分がどれほど大変だったかも知らないで。
燐は雪男に噛みついた。
「あのときはしょうがなかったんだよ!
俺だって好きで言ったわけじゃねぇ!状況がそうさせたんだ!
そうじゃなきゃ、誰があんな奴のこと・・・お、おにいちゃんだなんて呼ぶか馬鹿!!」
「実際呼んでるだろ!そう思う心がなかったら呼ぶわけないじゃないか!
それに、何でよりにもよってフェレス卿なんかに頼ったんだよ!」
雪男は緊急性があった為メフィストに連絡を取りはしたが、迎えまでは頼んでいない。
雪男の思惑よりも先にメフィストがしゃしゃり出たことで、今回のようなことになってしまった。
兄弟間の不仲をじゃれあいにしか捉えられない悪魔にとって
今回のことは笑い話にしかならないのだ。
そんな悪魔の笑顔を知らず、奥村兄弟の喧嘩はどんどんエスカレートしていった。
「だってお前その場にいなかったじゃねーか!」
「だから最初から僕に連絡すればよかったじゃないか!
警官に電話借りればよかっただろ!僕だって兄さんの身分を証明できるんだから!!
携帯なくったって、僕の番号くらい覚えてるだろ!」
「ば・・・弟のお前に補導されたからなんて言ーえーるーかーッ!!!」
二人は今や立ち上がって、メンチを切りあっている状態である。
お互い一歩も引く気配がない。
燐の方が喧嘩慣れしているので、ガンつけるのは燐の方がうまい。
雪男は慣れていないせいか、もう完全に目が人殺しの目をしている。
「いつもそうだ、兄さんは肝心な時に僕を頼ろうともしないんだから!!
だったらもういいよ!」
「あーあー!だったら俺ももういいよ!お前に頼るなんて恥ずかしくてできるか!
お前は俺の弟だろうが!」
「数時間先に生まれただけで兄貴ぶるなってんだよ!
今は兄さんの方が弟みたいなもんじゃないか!!」
その言葉に、燐が黙った。
雪男は自分の言った言葉に、思わず手で口を押さえてしまう。
しかし、一度言った言葉は覆らない。
お互い息が切れてきた。肩で息をしている。
動いたのは、燐が先だった。六○二号室の扉を開ける。
成人した今でも、騎士團に監視化に置かれている燐の為に、兄弟は旧男子寮に住んでいた。
その部屋を、燐が出ていこうとしている。
雪男は燐に声をかけようとした。しかし、燐がそれを言わせなかった。
「俺だって、好きでこんな外見なんじゃない」
扉が閉まって、燐が去っていく音が聞こえても雪男は動けなかった。
雪男が言いたかったことはそんなことではない。
燐が年を取らないとか、外見がどうという話をしているのではない。
なんで肝心なときに自分たちはすれ違ってしまうのだろうか。
「兄さんの家族は、僕と神父さんだろッ!!!」
雪男が許せなかったのは、ただそれだけだったのに。
***
燐はメフィストの執務室の扉を蹴り破った。
蝶番にヒビが入るような音が聞こえたが、この際無視だ。
メフィストはずかずかと部屋の中に入ってくる燐をこれまたおもしろそうな目で迎えた。
「ノックもできないとは失礼な弟ですね」
「俺はお前のこと兄貴だなんて思ってねぇよ!」
「そうは言っても、この前の件で貴方の弟さんは完全に誤解しているようですけどね。
まぁ誤解も何も真実ですけど」
燐は旧男子寮を飛び出してしまった。行き場など他にない。
学園を飛び出してしまえば、監視役である雪男に迷惑がかかってしまうだろう。
そう思ってここへ来た。燐は考えなしなわけではない。
そんな弟への気遣いが雪男を怒らせる原因なのだが、
兄としての威厳を保ちたい燐からしたら譲れないものもあるのだ。
しかし、今回のことは久しぶりに頭に来た。
兄弟喧嘩をすれば、燐の方が謝ることが多かったのだが、今回ばかりは譲れない。
燐は、メフィストに宣言した。
「俺は、グレることを決意した!」
こうなったら、雪男を全力で困らせてやろうではないか。
そして、どうにもならない状況に追いつめられたら、あの時の燐の気持ちを理解できるだろう。
燐はそう考えた。やはり、燐が考えた末に出した結論はろくなことにならない。
燐は頭脳型ではない。つまり、計画的な行動は絶対に向かないのだ。
燐は怒りでそこに気づいていなかった。
メフィストは完全にずれた燐の言動に、思わず拍手を送ってしまった。
「すばらしい!その計画。私も協力致しますよ奥村君!」
そして、奥村兄弟の最悪の日が幕を開ける。
≪ 長男は弟をハメるのがお好き | | HOME | | お立ち寄り下さりありがとうございました! ≫ |