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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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遊びにいくよ


「わかった、じゃあ明日9時に学園前で」

燐は携帯を切って、枕元に置いた。
風呂にも入ったし、ご飯も食べた。
あとは、眠るだけだ。燐はあくびをして、枕に顔を埋めようとする。
視線が、机に座っている雪男と合う。

「誰?」
「誰でもいいじゃん」

燐は眠かった。もう寝ようとしたところだったのだ。
別に、雪男に言わなくてもいいだろう。そう考えて燐は目を閉じる。
ぎし、とベットが揺れて体に重みが。
燐が目を開けると、雪男が燐の上に乗っかっていた。
重い。ベットも男二人分の体重を受けて悲鳴を上げている。
寮自体が古いのだから、もちろんこのベットも古いものだろう。
老朽化したベットに無理をさせるなよ。
燐が抗議する前に、雪男が燐のほほをひっぱった。

「誰と、どこに行くのかって聞いてんの」
「いたいいたい!」

燐が腕を振ると、雪男は素直に手を放した。
燐はのしかかる雪男を睨み付けた。
雪男は燐の言おうとしていることを悟り、先に言葉を放つ。

「あのね、僕だって聞きたくないよ。でも監視役が監視対象から目を離しちゃだめでしょ」
「めんどくせぇ」
「兄さん、今ごろになって監視の意味がわかったの?」

雪男はメガネを押さえてため息をつく。
監視といっても、不浄王を倒した一件で燐の処遇は以前に比べて随分と緩くなった。
しかし、半年後の祓魔師の試験に合格しなければ処刑という決定に変更はない。
雪男としては、寝ようとしている今この時にも教科書を読んで一文でも覚えてほしい。
こうして予定を聞くだけに留めていることを褒めてもいいくらいだ。
雪男の機嫌の悪さを悟ったのか、燐は素直に口にする。

「勝呂と、遊びにいく」
「へぇ、珍しいね。志摩君たちは?」
「いや、明日は勝呂と俺だけ。二人は予定あるんだってさ」

へぇぇと雪男は素直に驚いた。
燐と、あの勝呂が二人で遊びに行く。
不浄王を倒す前からいうと、考えられないくらい仲良くなっているらしい。
二人で協力して、命を懸けて悪魔を倒した経験というのはやはり特別なのか。
いつもの三人と一人という関係とは違って、ここはここで仲を深めるのはいいことだ。
祓魔師は一人では戦えない。
祓魔塾の。チームの連携を考えれば、プライベートで関わりをもつのも推奨すべきか。
塾講師としての打算も働きつつも、雪男はそんなそぶりを見せず。
一言だけそう。とだけ言った。
燐は納得した雪男を見て、さっさと寝てしまった。
雪男は仕事に戻ろうと、椅子に座った。
燐はもう寝ている。
パソコン画面を見て、雪男はぽつりとつぶやいた。

「明日の9時に。学園前・・・ね」




休日。朝の正十字学園前には、当然ながら生徒の姿はない。
グラウンドに、ちらほらと運動部の生徒がいるくらいだ。
校門の前に、勝呂は立っていた。時計をちらちらと見てため息をつく。
9時―――5分前だ。
基本的に30分前行動をする勝呂はいつも待つ側だった。
志摩や子猫丸は、そんな勝呂のことを知っているので、
9時に集合といえば大体遅れても待合せの15分前には来ていた。
しかし、今回の待ち合わせの相手は燐だ。
当然ながら高校から知り合った燐がそんなこと知るはずもない。
勝呂はそわそわしながら燐を待った。
あいつ、寝坊しとるんやないやろか。
勝呂が携帯を取り出すべきか悩んでいると、声が聞こえてきた。
携帯の時計は9時ちょうど。待ち合わせには間に合っている。
少し笑って、声のした方向に顔を向けた。
燐が駆け足でこちらに向かって来ている。

「悪い、待ったか?」
「いや、大丈夫や」
「嘘つくなよ。顔赤いぞ、寒かったんじゃねーの?」
「へいきや」

そんなやりとりをして、二人は歩き出す。
格好は、二人とも制服のままだった。
これは、勝呂の指定だった。

「一応聞くけど。お前、生徒手帳もっとるか?」
「生徒手帳?なにそれ?」
「・・・やっぱりな、うん。ええわ。制服やから学割してくれるやろ」

勝呂の予想通り、燐は生徒手帳の存在をすっぽりと忘れている。
それが予想できたからこそ、制服で来いと指定したのだ。
町に出れば、学割という学生ならではの特権が使える。
しかも、正十字学園は優等生の通う学校と周囲に知れ渡っている。
世の中に差別というものはないとされているが。
この制服を着ているからこそ受けられるサービスというものも、やはりある。
燐と勝呂は私服を着ていれば、まず間違いなく学園の生徒には見られない。
どこぞの路地裏のヤンキーの二人連れになってしまうのだ。
不良に絡まれても実力的にはどうとでもできるが、せっかくの休日だ。
そんな騒動は遠慮したい。
二人がスムーズに休日を楽しめる方法として考えたのが、制服だった。
それに、学割という割引を使わない手はない。
二人とも、実家の資金的な意味であまりお金を使いたくなかった。

「まず、どこ行く?」
「そうやなぁ、お前中学の頃はなにして遊んどった?」

勝呂は、まず燐のやりたいことを聞こうと思っていた。
二人で遊びに行くだけだ。あとは、歩きながら考えればいいと考えていた。
燐は、きょとんとした表情のまま。答える。

「俺、友達と遊んだことない」
「え」

予想外の返答だった。
勝呂は硬直する。遊んだことがない?
勝呂は自分が同年代の子供に比べてストイックな趣味を持っていることは知っている。
しかし、遊んだことくらいはある。
燐の返答が予想外すぎて、どう対応していいのかわからなかった。
勝呂の様子に気づいたのか、燐はあわてて付け加える。

「俺さ、友達いなかったんだよ。自分が悪魔だって知らなくて、力の制御ができなくて。
それで、中学にもまともに行ってなかった。だから、友達と遊んだことなくて・・・
それにお金もなかったし。いつも神社で暇つぶししてたくらいで・・・」
「・・・っく」

勝呂は思わず燐から顔をそらした。
燐は、余計自分が墓穴を掘ったことに気づかない。
魔神の落胤というのも、やはり相応の苦労はあったのだと勝呂は気づかされた。
燐の不毛な中学時代を聞いて、胸が痛んだ。
ここは、自分がリードしてやるべきだ。勝呂の生来の世話焼き根性に火がついた。
遊びに行く。遊び、と考えて勝呂は思いついた。

「カラオケ行くか」
「おお、行ったことない!」
「お前、普段音楽何聞くんや」
「音楽聞いたことねーな!お前普段何聞くんだ?」
「ランニングの時は般若心経やな。覚えとるから何も見んでもいけるけど」
「すげえ。俺讃美歌しか歌えねーよ」

そもそも、般若心経と讃美歌が入っているカラオケがあるかどうか。
二人はそれにすら気づかない。
勝呂は、燐に同情したが。勝呂も正直同世代の遊びについては疎い。
志摩からの誘いで遊びに行ったことはあるが、基本的にお経。ランニング。勉強。暗記。
と休日も自分を追いつめてひたすら鍛錬を重ねていた中学時代だった。

「カラオケもいいけど、町にも行きたいな」
「買い物するか」
「金ねーけど。あれかウインドウズショッピング?」
「なんでパソコン買うねん、ウィンドウショッピングやろ」
「服見たいなー」
「ええな、服。お前変な柄のTシャツばっかやもんな。たまには違うの着てみろや」
「変な柄いうな。あのTシャツ、手作りなんだぜ」
「誰の」
「雪男の」
「・・・独特のセンスやな」
「冗談だよ」
「冗談かい!」
「Tシャツは雪男のおさがりなんだけど、それに加工を施したのは俺だ」
「お前、裁縫もできたんか・・・」
「炊事洗濯。家事全部できるぞ。一回シュラにつまみ作ってやったら、
本気で『アタシが稼ぐから、嫁に来い』って言われた。
なんでも、魔神の落胤じゃなけりゃー、独身女性には魅力的な物件とかなんとか」
「・・・お前、それヒモになれって言われとるんちゃうんか」
「ヒモじゃねーし!主夫だし!」

二人は話ながら、町の方へと歩いていく。
そして、遊びに疎い二人の行きつく先を、見守る影があったことに。
話に夢中な二人はまだ気づかない。

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