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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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荊のネバーランド


燐は走っていた。任務に遅れてしまう。
それだけを考えて、悪魔の脚力を使って正十字の町を駆け抜ける。
変な夢を見た気がした。そのせいで寝坊して、こんな時間に寮を出ることになって
しまったのだ。雪男は、燐を起こしてはくれなかった。なんだよ。出るなら起こせよ。
燐はイライラしながら足に力を入れる。
近道である路地裏の階段を降りて、一気に加速してジャンプした。
一足で、家を二軒ほど飛び越えた。そのまま屋根を伝って、次から次へと飛んでいく。

目的の駅までは、このまま行けばすぐ着くだろう。
普段なら道を使うのだが、今は時間がない。
燐はそう言い訳をして、夜の町を駆けた。気持ちがいい夜だった。
夜空には雲一つなく、青い月が光っている。

燐にとっては美しい夜だが、一般人からしたら暗闇だ。
燐が飛んだり跳ねたりしていても、見間違いで済ましてくれるだろう。
雪男に見つかったら怒鳴られるだけでは済まないだろうが。
雪男は燐が悪魔としての力を使うことを恐れている。
燐が自分の元から離れていってしまうことが怖いのだ。

でも、燐は自分の力から逃げないことを決めた。
逃げても、この力はなくならない。だから、立ち向かうしかない。
自分は、魔神の落胤として祓魔師になる。
覚悟を決めた燐は、もう悪魔としての力を使うことを躊躇しなくなった。
まぁ確かに一般人の目の着く場所で力を使うことがいけないこともわかっている。

「怒られたら、お前が起こさないからだって言ってやろう!」

燐は駅の前にたどり着いた。といっても屋根の上だ。
時間的にもう終電だ。この終電に乗らなければ任務の目的地にいけなくなってしまう。
燐は人がいないことを確認すると、屋根の上から飛び降りた。
人ならば骨折するだろう高さも、燐ならば問題ない。
階段の三段目くらいから降りた、くらいの感覚だ。
雪男が危ないだろう。と注意するのも人間の感覚で語るからだろう。
悪魔に取っては高さなどあってないようなものだ。
燐は飛び降りてきた様子など窺わせない様に、小走りで駅へ向かった。

「すみません、終電ってこれですか?」
「そうだよ。乗り遅れたら次はないからね。乗るなら早めに」
「わかりました」

燐は駅に入ると、切符を買って改札を通った。思った通り、人はいない。

「なんだよ。皆もう行ったのか・・・」

勝呂達からのメールを確認すれば、一本前の電車で向かったようだ。
流石、30分前行動を地で行く男である。
時間帯が深夜であることから、志摩辺りは駄々をこねていそうだが。
燐が駅のホームで電車を待っていると、程なくして電車が入ってきた。
よく確認するが、幽霊列車ではないようだ。車掌も人間である。
ここで幽霊列車に乗ったら虚無界へ直行だ。そんなのはごめんである。

燐は時計を確認して、列車に乗り込んだ。時刻はちょうど夜の12時。
日付が変わってしまった。携帯電話を操作して、待ち合わせの場所を見る。
この電車の終点が目的地か。燐は誰もいない列車の中で、椅子に座った。
電車の窓側に一直線に設置された椅子だ。
いつもなら大勢の人がいるのだろうが、今は人の気配もなくしいんとしている。
窓には学園の夜景が映っては消えていった。
真夜中の列車は目的地がわかっていても、どこへ向かっているのかわからない錯覚を起こす。
一人でいると、その感覚がとても顕著だ。


なんだろう、ドキドキするな。
燐は自分の心臓を押さえた。


これは幽霊列車ではないのに、闇の中へ落ちていくようなそんな不安感。
燐は意識を戻そうとして、列車内の電球を見上げた。レトロな列車のせいか、電球だ。
列車自体も所々木を使って作ってある。
ごおお。大きな音がした。窓の外を見れば、漆黒に包まれていた。列車がトンネルに入ったようだ。
トンネル内では携帯電話も使えない。燐は携帯を弄ることもできず、ため息をついた。

ごおお。また大きな音がした。列車の中からだった。
見れば、帽子を被った男が一人燐のいる車内に入ってきた。
電車は三両編成だったので、後方の車両から入ってきたのだろう。
燐がいるのは、三両編成の車両のちょうど真ん中だった。

よかった。俺以外にも客がいたんだな。

そのことにちょっとだけ安心した。
終電の列車に乗る機会などあまりない。
人がいないことは知っていたが、やはり一人ではなんとなく落ち着かないものだ。
男は燐から離れた席に座った。もしかしたら男も燐と同じ心細さを感じていたのかもしれない。
燐は目を閉じた。任務に備えて仮眠を取ったとはいえ、まだ候補生の身分だ。
昼間は高校に行っているし、夕方は塾で勉強。
祓魔師のように時間に融通が利くわけでもないし、確実に睡眠不足だ。

目的地は終点なのだし、寝ていたとしても問題はないだろう。
燐は携帯電話で、アラームを設定した。
終点までの時間はアナウンスで確認したので間違いはないだろう。
電車でうたた寝して寝坊したなど、雪男の怒りが頂点に達しそうだ。

燐はアラームを設定すると、携帯を右手で握る。手で持っていれば、
アラームが作動してバイブ機能で起きるだろう。車内なのでマナーモードだ。

ちらりと男の方を確認した。男の方も、うつらうつらとしているようだ。体が揺れていた。
燐もそれに習って目を閉じる。アラームで起きなかったら、もう駅員さんに期待するしかない。
自分の寝汚さを自覚しているので、そこはもう開き直っている。
燐は程なくして、眠りに落ちた。

***

時間はどのくらいたった頃だっただろうか。
燐は自分の口から涎が落ちている感覚で、目を覚ました。
涎は普段はべとべとしているが、
寝ることで副交感神経が刺激されて唾液がさらさらになる。
唇に液体が落ちる感覚は覚えがある。燐は慣れた手つきで唇を拭った。

なぜだか、鉄さびのようなにおいがしている。おかしいな。
燐は目を開けた。ぼんやりとした視界が、手に焦点を合わせる。
手は、真っ赤に染まっていた。

「え・・・?」

燐は口を再度拭った。べっとりと今度は倍の量の血がこびりついている。
握っていた携帯電話が床に落ちた。
列車は揺れるので、揺れに合わせて携帯電話は床を滑っていく。
自分は、血を吐いている。なんで。
手から血が滴り落ち、下に落ちていく。視線が自然と下にいく。
自分の腹から、腕が生えていた。
正確には、男の腕が燐の腹を貫いていた。
男の顔は、見えない。帽子を被っている。
遠くの席を確認すると、先程車内に移動してきた男がいなくなっている。

あの男だ。燐は男の腕を掴んだ。男はそれでも、燐の腹から腕を抜こうとはしなかった。
普通の人間は、人間の腹を突き破ることなどできない。

こいつ、悪魔か。

燐は炎を出そうとするが、目覚めた意識が痛みに向かう。集中できない。
痛い。痛い。腹が焼けるように痛い。異物が侵入している感覚。
気持ち悪い。燐は血を吐いた。吐いた血は男の帽子にかかった。
男の腕が、燐の内部で動く。

「い・・・てぇッ」
「ああ動いたら駄目だよ。位置がずれる」

男は燐の腰を、もう片方の手で抑え込んだ。
中に入った男の手が、燐の腹をかき回す。燐は声にならない悲鳴を上げた。

くそ、なんだよこいつ。俺に何する気だ。

燐はなんとかして男をどかそうと、力の入らない腕で男の頭を叩いた。
帽子がずれ落ちて、男の顔が晒される。
燐の目が開かれる。燐は声を出そうとした。でも、できなかった。
男が落ちた帽子を、燐の口の中にねじ込んだからだ。

「大人しくしててもらおうか」

男はそのまま、燐を椅子の上に押し倒した。
燐の体は全身が椅子の上に乗る形になった。寝転がっているような状態だ。

ここは三両列車の真ん中だ。一番前には、運転手が。
一番後ろには車掌がいるが、真ん中には誰もいない。
見回りも、終点に着くまではないだろう。この車両の異常に気づくものはいない。
燐は足をばたつかせる。

抜け、抜けよ。くそ、超イテェ

意識が痛みで朦朧としてくる。
ぼんやりとした感覚でもわかったのが、腹の中に腕以外の何かが入ったことだった。

「ん!ううッ!!」
「ああ、わかるかい?種が入っていること」

種?なんだよそれ。意味わかんねぇ。なんで俺の腹なんかに。
男の腕が入っている異物感の他にある、なにかの感触。
それが種というものだろうか。

男の腕が燐の腹から引き抜かれた。
血がどくどくと出ている。列車の中は血まみれだろう。
男の手が、燐の腹に開いた穴を抑えている。
燐は悪魔だ。ネイガウスに襲われた時も、腹に穴が開いたがすぐに塞がってしまった。
きっとこの傷もすぐに塞がってしまうだろう。燐は恐れた。

種、と呼ばれたものの感覚。それがまだ燐の中に残されている。
このまま傷が塞がれば。考えただけで恐ろしい。
燐は傷を抑える男の腕をどかそうと、もがいた。

いやだ。気持ち悪い。離せ。

燐の抵抗を男も必死で抑える。男の手が、燐の尻尾に伸びた。
メフィストに隠すように言われてからは、腹に巻きつけていたのに。
痛みで、緩んでしまったようだ。男に尻尾を握られ、燐はもう抵抗できなかった。
だがせめてもの抵抗として、男が押さえている傷口に両手を乗せた。
無情にも、傷口は塞がってきていた。あと数分もすれば、跡形もなく消えていることだろう。

燐は失血したことが原因であろう、眠気に苛まれていた。
腹を突き破られたのだ、失った血は大きい。燐はどんどん瞼が落ちていくのを感じた。
だが上に伸し掛かっている男に、一言言ってやりたい。
燐は口に押し込まれていた帽子を、舌を使って吐き出した。
唾液が糸を引いて、床に落ちた帽子と燐の口を繋げている。気持ち悪い。
燐は吐き捨てるように言った。


「藤堂・・・ッ!テメェ俺に、なにしやがった!」


燐に伸し掛かる人物。それは京都を不浄の海に染めようとした。
弟である雪男を殺そうとした人物。藤堂三郎太だった。
初めて見た時とは随分年齢が違うが、指名手配もされている人物だ。
塾で手配書も見せられた。なにより声が同じだった。

間違うはずがない。

藤堂は、声を出した燐の頬を殴り飛ばした。
車掌が気づいて、ここに来ないとも限らないからだ。藤堂は容赦がなかった。
完全に意識を失った燐を見て、藤堂はほくそ笑んだ。


「プレゼントだよ、ここでしっかりと育てるといい。奥村燐君」


藤堂は燐の腹を撫でた。
傷口は跡形もなくなっていた。もう、自力で出すことは不可能だろう。
自分で腹を裂くなど、並大抵の神経ではできはしない。
それに、時間がたてば馴染んてきて、もう取り出すことなどできはしない。

藤堂は時計を確認した。終点までは、まだ時間がある。
燐はおそらく起きれないだろう。
藤堂は一呼吸おいて、カルラから奪った赤い炎を出した。
炎は、一瞬で座席や床に着いた血だけを焼き尽くした。
一瞬だけなので、車内の火災報知器も作動しない。煙も出さない焼き方。
それは、カルラの炎を完璧に操っていることに他ならない。

「じゃ、遅刻しないようにね」

藤堂は、次に止まった駅で降りて行った。
車内の異常に気づいたものは、誰もいなかった。


***


「ちょっと君、もう終点だよ!起きて!」

駅員の声で、燐は意識を取り戻す。
遠くの方で携帯電話のバイブの音が聞こえてきた。
無意識に自分の腹を撫でた。傷はない。
服も破れていなかった。

「大丈夫?家まで帰れるかい?」

駅員は意識の定まらない燐を心配したのか、顔の前で手を振った。
燐は意識を取り戻して、周囲を確認した。

「あれ・・・ない?」

傷口がない。のはわかる。燐の治癒力で塞がったのだ。
でも、座席や床に広がった燐の血までも跡形もなくなっている。
確かに出血したのに。あの量の血をあの短時間で片づけることは不可能だ。
一体どこに、夢か。でも痛みはあった。なんで。
燐はぐるぐると回る意識を定めようとした。

「携帯ならあるよ。はい」
「え?あ、ありがとうございます・・・」

駅員は燐が携帯を無くしたと思ったのだろう。
それを受け取って、燐は平静を取り戻した。
そして、バイブ機能がまだ生きていることを不思議に思った。
おかしい、確か設定では2分くらいにしたはずなのに。
燐は携帯を開いた。画面には、奥村雪男。と表示されていた。

着信だ。一気に、目が覚める。表示された時刻を見て青ざめた。
待ち合わせ時間を過ぎている。
案の定、電話に出ると思いっきり怒られた。


『ちょっと兄さん!!遅刻だよ!どこで何してるの!!?』
「うおおおお!ごめん!!」


燐は駅員にお礼を言って、素早く列車を降りた。
あれは、夢だったのだろうか。道を駆けながら燐は疑問に思った。
一抹の不安が抜けない。
血がないなんて変だ。あんなに出血したのに。
燐は自分の腹を撫でる。違和感は、ない。
夢と現実の区別がつかない。
燐はひとまず意識を任務へと向けた。
これ以上弟を怒らせたら、どうなるかわからない。
そのために燐は、駅員の言葉を聞き逃した。

「もう携帯落としちゃだめだよー」

燐は寝る前に携帯電話を握って寝たのに、落としていた。
その事実に気づかないまま燐は夜の町を駆けた。

植えつけられた種が、どくんと静かに脈打った。

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