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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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僕が守るよ



「大人しくしていれば綺麗なものだろう?」

アーサーは目の前にある青い水晶を撫でた。
そこには無機質な感触しかなく、中に入るものが宿している炎の温度など感じない。
水晶は青い火の粉までも閉じ込めており、光が反射するたびに青く光った。
アーサーは水晶を叩いた。
こんこん、という堅い音しかしない。
中に入るものが目覚める様子はなかった。

「お気に召さないのか?奥村雪男」
「・・・当たり前だろう」

薄暗い地下牢のような場所で、アーサーと雪男は対峙していた。
雪男はアーサーの言葉に返事を返したものの、視界になど入れていなかった。
腹の底が焼けるようだ。
喉の奥から恨み言を吐き出したい。
この目の前の男に、この不快な思いをぶつけて罵ってやりたかった。
アーサーの後ろに浮かぶ、青色の水晶のなかには傷だらけの燐がいた。
ぴくりとも動かない。
燐は、水晶に閉じ込められて外からの呼びかけに何の反応も返さなかった。

「死んでいるみたいだな」

アーサーの愉快な声はやまない。
黙れ、そんな不吉なこと言うな。
その口を閉じろ。
僕の家族を帰せ。返せ!
雪男の目は家族を奪われた憎しみで染まっている。
その燐と同じ瞳を見て、アーサーはため息をついた。

「人間とはいえ、同じだな。魔神の息子め」
「そうさせているのは貴方だ」
「そうか?私は剣を向け、この悪魔を閉じ込める檻に入れた。
お前は暴走したこいつを止めるために銃を向けた。
私も、お前も、この悪魔を止めるためにしたことは同じではないのか?」
「違う」
「違わないさ。結局守るとかほざいているが、お前だって傷つけることでしかこいつを止めることはできない」
「・・・僕は兄さんを守るために力を手に入れた」
「が、結果はどうだ?お前はなにも守っていない」
「ここで貴方を殺して兄さんを取り戻せば、僕は兄さんを守ったことにはなりませんか」
「無理だな。お前では俺は倒せない。俺に殺されて終わりだ。
結局お前は自身すら守れない。負け犬になるだけさ」

アーサーは水晶に魔剣の切っ先を向けた。
水晶の中に魔剣が沈み込んでいく、剣が燐の体に僅かに突き刺さった。

「なにを・・・!」

雪男は焦った。燐の体は既に傷ついていると言うのに、アーサーは更に傷つけようとする。
反射的に銃で魔剣を狙い撃つが、水晶に弾かれてそれも叶わない。
アーサーの魔剣には水晶を貫通する術式でも施されているのだろうか。
魔剣が抜かれると、水晶に入った切れ込みは綺麗に修復されていく。
血だ。血が出ている
体が傷つけられたというのに、中にいる燐は苦悶の表情もなにも浮かべない。
血が燐の体を染め上げる。
腹を伝い、つま先から落ちていく。
水晶の先端に血溜まりができた。
傷が癒えるまで、血は流れ続け、そこに溜まって落ちていく。

「このまま何度か繰り返せば、いつか水晶の中は血でいっぱいになるな、紅水晶の出来上がりだ」
「悪趣味な・・・!」
「まぁそんな面倒なことはしないさ、こいつの血はな、利用価値があることがわかった」
「価値・・・だと?」

アーサーが水晶の先端を切断した。
血溜まりは床に広がり落ちていく。周囲の暗闇から、鋭い眼光がいくつも宿った。
ゴブリンだ。唸り声を上げながらアーサーと雪男に飛び掛ってきた。
雪男は冷静に銃で打ち抜いていくが、ゴブリンの一匹が雪男の傍を通り抜ける。
『グルアアアアアアアアア!』
その瞳は狂喜で満ちていた。必死に、欲する。欲、本能。
床に流れ落ちている血にゴブリンは我先にと群がっていく。
それも、一匹や二匹ではない。
ゴブリンは人間になど目もくれず次々に燐の血を求めて塊になっていく。

「な?簡単だろう?」

塊に魔剣を突き刺し、殺していくアーサー。
まるで野菜でも切るかのように剣を上下に動かすだけでゴブリンは死んでいった。
反撃はない。それよりも目の前にある血に固執している。
自身の死よりも優先されるべき血。
悪魔を狂わせる。魔神の血だ。

「こうやって悪魔をおびき寄せることにも使えるし、
手騎士が使えば召還のリスクを押さえることができるようだ。
こいつの血を使えば、手騎士のランクに囚われずに上位の悪魔を召還することもできるようだ」
「・・・こんな実験動物みたいな扱い、許されるわけないだろう!」
「三賢者が命じたことだ。許すも許さないも。それこそ、神の御心のままに」

十字を切ってお辞儀をするアーサー。
そこには何の悪意もない。善意のみの瞳。
だからこそ、悪魔染みている。
雪男の瞳は正しく、殺意で染められる。

「では聞くが、こいつが外に出て、何かが変わるのか?」

アーサーは心底面倒臭そうな顔で言った。

「こいつが外に出る。こいつはそれこそどこにだって行くだろう。
家族を。友人を。傷つける敵がいるなら駆けつける。自分の大切なものを守るために。
しかし、元を辿れば原因はこいつ自身にある。魔神の仔など、存在するだけで疎まれ蔑まれ。
殺される。こいつは厄病神だ。何を起こすかわからない。何を引き寄せるかわからない。
だったら、最初から閉じ込めておけばいい。簡単だろう?
お前も、監視をしている時に思っただろう?
どうしてコイツは大人しくしていないんだろう。
大人しく部屋にいてくれれば、あとは自分がカタをつけて戻ればいいのに。
そう思っていたんだろう?」

「そんなこと・・・!」

「思っていないとは言わせないぞ、いつもお前はこいつに対して思っていた。
自分が守る、自分が兄を守るのだと。それに対してこいつは反論しただろう。
しかし、お前は反論を許さなかった。
こいつを守ると言う名目で閉じ込めることも、麻酔で眠らせて大人しくさせることもした!
何が違う奥村雪男。
こいつを大人しくさせたかったのは紛れも無いお前自身も望んでいたことだ。
俺がやることとお前がやることにそう、大差はないさ」

「違う!」

どうして大人しくしておいてくれなかった。
その言葉は幾度となく雪男が燐に呟いた言葉だ。
燐にも主張すべきことはあった。そして雪男と山ほど対立した。
しかし、今彼は反論するべき意思をもたない。
彼は、それこそアーサーの。雪男の意のままにできる状態だ。
それを、望まなかったと言えるのか?
アーサーは雪男に問いかけた。
「共通することは、こいつの意思を無視していることだがな」
「お前とは違う!僕は、そんなこと望んでなんかいない・・・!」
アーサーは首をかしげた。
心底訳がわからない、といった表情だ。


「じゃあどうしてお前は―――笑っているんだ?」


薄暗い地下牢のような場所で、アーサーと雪男は対峙していた。
アーサーの後ろに浮かぶ、青色の水晶のなかには傷だらけの燐がいた。



正しくいうなら、ここには―――悪魔が、三人いたのだ。

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