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CAPCOON7

青祓のネタ庫

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よくわかるサバト講座



サバト―――
魔女や呪術師が行う儀式のこと。
また、その儀式には生け贄、血、臓物などを要し
悪魔と通じる為の回線を開くことを目的とする。
運良く回線を開くことができれば、そこから悪魔の囁きを聞くこともできる。
悪魔崇拝者達はそれを予言とも言うが、悪魔の言うことなので信憑性は定かではない。
上級者になると、本物の悪魔を召還し代償と引き替えに使役することも可能となる。
しかし、大なり小なり儀式に犠牲が必要であること。
また、人類不変の敵である魔神と通じる行いであるため現在では教会が取り締まりを強化。
サバトを行う事は禁止されている。
だが、取り締まりを強化しても儀式を行うものが多数存在することもまた、
事実である。



「と、言うわけで今度はサバトの語源についてだけどこれは古フランス語の・・・」
「先生、ストップストップー」
「なんですか志摩君」
「奥村君の耳から煙が出ています。やめてあげて下さい」
「はぁ・・・またか」

雪男は教科書を閉じて、教壇から降りた。
目の前には、教科書を持ったまま微動だにしない兄の姿があった。
雪男は教科書をとって、軽く兄の頭を叩く。

「兄さん、わかった?」
「・・・え?ああ・・・おう」
「オーバーヒートやなぁ」
「要領と容量に問題があるね」
「お前等が俺を馬鹿にしてるのはわかった」

言って、燐は机の上に俯せに倒れ込む。
勉強は苦手だ。先ほどの雪男の説明を半分も理解できなかった。
「だいたい、なんで儀式のことなんか補習で勉強すんだ?
これどっちかというと手騎士っぽい気がするんだけど」
「あ、それ俺も思いましたわ。なんでサバトを主な題材にしてはるん先生?
悪魔薬学っぽくはない気が」
実は、先日兄を狙った輩が悪魔崇拝者の上、兄を使って実際にサバトを行おうとしたからですよ。
と、言おうとも思った。事実燐には授業の開始前にも説明しているが、
結局意味がわからなかったらしい。
だからこそ、こうして何度目かわからないくらい説明しているのだが、
進歩が見えない。雪男は深いため息をついた。
ちらりと視線を兄の隣に座る志摩に向けた。
志摩は運悪く一昨日の小テストでひっかかり補習を受けている。
志摩がいる中、本当のことを言っていいものか。

雪男はそれが気がかりだった。


「手騎士だけの管轄じゃないでしょう。
これは祓魔師に通じる常識の範囲内の勉強ですよ。
今から称号に捕らわれて勉強の範囲を区切るのはよくないですよ」

ひとまず、こう言っておけば支障はないだろう。
雪男は時計を見た。時刻は補習終了の30分前。まだ時間はある。
こうなったら補習で兄の頭に詰め込むのをやめて、帰ってからまた教えるしかないか。
そう考えて、残り時間の授業の埋め方を算段しようとした時。

「なぁ雪男これって昨日の襲撃者の奴らと関係あんの?」
「襲撃者・・・?何なんそれ物騒な話やな」

回路が繋がるのが遅すぎるよ兄さん。
何度も説明をした結果が今ここに。
しかし、よりにもよって話を終わらせようとした瞬間にこれか。
燐が口をすべらせれば、雪男は話すしかなくなる。
現に、志摩が何か言いたそうにこちらをみているからだ。
下手に話に尾ひれがついても困るので、雪男は志摩も含めて改めて説明をすることにした。
これで残りの30分の予定は決まってしまった。
一日でも早く危機感というものを覚えてもらおうと、焦ったのがいけなかったのかもしれない。
クラスメイトがいる中でするんじゃなかったなぁ、と雪男は今更ながら後悔した。


「事の発端は兄が言った通り、昨日学園内に襲撃者が現れた事が原因です。
目的はわかっていたので、泳がせて拘束することにしたんです。
ああ、今はもう大丈夫ですよ。昨日の時点でちゃんと捕まえていますから」

「俺を囮にしてな」

燐は不快そうに雪男に向けて呟いた。
それに驚いたのは志摩だ。

「それほんま?」
「だから、ごめんってば。昨日の時点ではフェレス卿に口止めされてたんだよ」
「だからってよー」
「え、何なん。先生ほんまに奥村君のこと囮にしたん?」
「同意しかねる作戦でしたけど否定はしませんよ」
「まぁ結果捕まえれたし、俺も無事だったから別にいいけどよ」
「・・・ははぁ、だから先生躍起になって奥村君に教えようとしたんやなぁ危機感薄いわ」
「でしょう」

初めて志摩と意見があった。
とにかく、自身のことに無頓着なのは頂けない。
今直しておかないと、取り返しのつかないことになってからでは遅いのだ。
雪男の心配は正にそこにあった。
「で、どんな風に襲撃されたん?」
「3人組の男だった。顔には仮面つけてたな。
魔神様がどうとか言って腹殴られるし、溺れるし散々だった。
あと確実に3人とも頭がおかしい。
気絶する前なんか儀式がどうとか話してた気がする」
「・・・先生、今日の授業と奥村君の話をかけあわせると、
つまるところ、昨日奥村君は頭のおかしいサバト集団に狙われたってことで
ファイナルアンサー?」
「正解です」
心臓食べようとしたことまでは伏せておいた。
話したら雪男も気分が悪くなるからだ。
志摩はうーんと頭をひねる。正直、内容が重い話だ。
それなのに当の本人がよくわかっていないため、楽観的。
志摩が若干ながら引くのもうなずける。

「奥村君、それはあかんわ」
「何がいけないんだよ」
「先生が補習で言うてることわかった?」
「いいやさっぱり」

そうして、志摩はまた頭をひねった。
雪男ですら悩ませる燐の理解力をどうやったら危機感にまで繋げられるか。
そうして、志摩の頭にあることが閃いた。

「よし、奥村君にもわかりやすく俺が例えたるわ」
「え、できるの志摩君?」
意外だった。この難問を、彼はどうやって解いてみせるのだろう。
雪男は半信半疑ながら興味を持った。

志摩は、さらりと言った。


「つまりな、昨日の男達が行おうとしたサバトいうんは
奥村君がメインディッシュの乱交パーティや」


教室内が静まり返る。
そして、志摩の言葉を聞いた燐の顔がどんどん青くなる。

「・・・う、嘘だ!」

「奥村君、これは事実や。
3人組の男に気絶させられて何をされそうになったのか、想像してみい!
怖いやろ!危機感が駆け抜けるやろ!」
「怖い!なんていう怖さだ!」
「そうやろ、そうやろ!そういうことや!」

と言っておもむろに燐の尻に伸びた志摩の手を雪男は止めた。
どさくさに紛れてなにをする気だ。
「いや、間違いじゃないけどもっと言い方があるだろう志摩君!
っていうかそれでわかったの兄さん!??」
「一応、サバトいうんは儀式内に『そういうこと』が含まれたやり方あるやん。
間違いではないし、手っとり早くていいやろ?」
「なんで僕が説明しなかったことまで知ってるのさ」


「俺、教科書に書いてあるエロいことから淫らなことまで。
一字一句抜けもなく、マーカー引いてます」


志摩の自信満々な言葉を聞いて、燐は震える声で言った。

「志摩、後でそれ俺に見せて」
「ええよ」
「よくわからない協定を結ばない」

ぱしっと教科書で二人の頭を叩いた。
叫ぶほど怯えたということは、兄も状況を理解したらしい。
ひとまず、危機感を覚えさせるということは成功したようだ。
自分が何時間かけてもできなかったことが、
志摩の一言で解決したことについてはあまりいい気分ではないけれど。

チャイムが鳴った。補習の時間は終わりだ。

「・・・お礼を言っとくよ志摩君」
「まぁ奥村君と俺はエロスで通じてますから」
「・・・撤回するよ」
「ははは、ええですやん。先生、さっきのお礼もろときますわ」
機嫌の悪くなった雪男から逃げるように、志摩は鞄に荷物をつめてそそくさと出ていった。
燐は、まだ顔色が悪かった。雪男は声をかける。

「だから、危ないと思ったときは、次からはちゃんと僕を呼ぶこと。わかった?」

燐からの返事はない。不審に思っていると、こぼれるような声が聞こえた。

「・・・なぁ雪男」
「何」

「いや。お前が、俺を・・・乱交パーティの男共を捕まえる為とはいえ、
おとりにするなんて・・・!いや、やっぱりなんでもない!!」


燐は雪男から逃げるように後ろに身を引いた。

それにショックを受けた雪男の手から教科書が落ちる。
落ちた教科書が床に広がった。
教科書の文章に赤いマーカーで「乱交」「サバト」「性交」とチェックがついていた。
さっき、教科書で二人の頭を叩いた。
あの時、机に置いていた教科書が、志摩のものと入れ替わったのか。
それを見た燐の顔がまた、青くなった。
これで燐の頭には、サバト=乱交とインプットされてしまった。
そして、雪男は乱交目的で燐が狙われていると知っていながら放置した、
裏切り者とでも思われているのだろう。
正直、ここまでタイミングが悪いと泣けてくる。

「待って、違うんだよ」
「お前の教科書にも、あるじゃねーか・・・確信犯かよ!」


燐は、雪男を振り払うように、教室のドアに向かって駆ける。


「待って兄さん!あいつらは兄さんの心臓を食べようとしただけであって、
決して犯ろうとしてはいないんだ!殺ろうとしてたんだよ!」
「ちくしょう、カニバリズムも込みかーー!!」
「兄さん、待つんだ!どこでそんな言葉を・・・」

兄は去ってしまった。雪男を置いて。
もうだめだ、完全にどん引きされた。
なんだこの状況。兄に襲撃者に対する危機感を持って欲しかっただけであって、
決して自分に対して危機感を持って欲しかったわけじゃないのに・・・
志摩の言葉が、余計に兄を混乱させているじゃないか。


「・・・この落とし前、どうつけてやろうか」


志摩にとって救いだったのは、雪男の怒りの矛先が志摩ではなく、
襲撃者に向かったことだった。携帯を取り出して、連絡する。




「フェレス卿。昨日の悪魔崇拝者達の尋問、まだでしたよね。
僕も行っていいですか」
「先生、なんだか怖いです」
「そうでしょう、だって僕も人間とはいえ魔神の息子ですからね」

そうして、雪男は今晩部屋に戻ってからどうやって兄への誤解を解くかを考えた。


ああ、しかし。これは最初よりかなり難しくなっている。
簡単には解けそうもない、予想外の難問だった。

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