青祓のネタ庫
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監視のない道を
ちょっとそこまで二人で歩く。
携帯電話が鳴って、メールの着信を告げる。
開けば、志摩からの連絡。
「今から遊びに行かん?」とのお誘いが。
ベットに寝ころんでいた燐は、起きあがって机で仕事をする雪男の方を見た。
時計をちらりと見れば時刻は午後11時。
雪男は燐の言わんとすることがわかったのか、首を横に振る。
「なんだか知らないけど、ダメ」
「えー、なんも言ってねぇじゃん」
「それよりも、明日の宿題やったの?」
「・・・まだ」
「だからダメ」
「いいじゃん」
「兄さん、僕が監視役なの知ってるでしょ。夜も遅いし、許可できません」
雪男の言葉に押されて、燐はうなだれた。
もう一度、ベットに横になる。
メールに返信。
「今日はダメだ。悪い」
送って、そのまま目を閉じた。返信はない。
かりかり、とドアを爪でひっかく音がした。
「ああ、クロ帰ってきたんだ」
雪男がイスから立ち上がって、ドアを開けた。
外に出かけていたクロが部屋に帰ってきたようだ。
にゃーんという声が聞こえて、クロは燐の眠るベットへ飛び上がる。
ごろごろと喉を鳴らして、クロは燐に甘えだす。
燐は、クロの喉を撫でて、また目を閉じた。
兄さん宿題は、という声に後でする。とだけ返してそのまま寝た。
朝にはやってよ。という声には聞こえなかったふりをして。
深夜、燐は目を覚ます。
横を見れば、雪男が寝ていた。時刻は午前3時。
真夜中だ。ベットから降りて、木刀を持つ。
雪男にバレないようにこっそりと支度をしていると、クロが話しかけてくる。
「りん、あそびにいくのか?おれもいく!」
「しー、静かに。雪男起こすと機嫌わりぃから静かに」
そうして、部屋を抜け出した。
ドアが閉まったところで、雪男が目を開ける。
(・・・またクロと修行に行ったんだな)
いつものことだ、バレてないとでも思っているのだろうか。
雪男はクロと会話はできないので、内容はわからない。だがおおよその予想はついた。
今は深夜だが、このことに関しては雪男は燐の行動を咎めるつもりはない。
自分も、燐に隠れて祓魔師の修行をしていたからだ。
帰ってきた時もちゃんと寝たふりをしないとなぁと考えて、雪男は目を閉じた。
もう日付が変わっている時刻だ。眠くないといえば嘘になる。
そういえば、今月のスクエアはもうコンビニでは発売されているかもしれない。
修行の帰りに買ってきてくれないかな。とふと思う。
瞼の裏に、兄がコンビニに行く姿が見えた気がした。
「奥村君遅かったな」
「志摩、おまえよくこんな夜中に待ち合わせできるよな」
「最初は11時の予定やったんやけど?」
「だって雪男がダメだっていうしよ」
「まぁそう思って、3時頃におるっていうたんやけど」
「携帯で言やいいじゃねぇか」
「だって、携帯じゃ誰が見とるかわからんし。ええやろ?」
燐と志摩はコンビニで、立ち読みをしながら会話している。
深夜のせいか、店内には眠そうに瞼をこする店員1人しかいない。
静かな真夜中の空気があった。
コンビニの外で、クロがにゃーと鳴いた。
「クロなんて?」
「今日はかにかまが良いってさ」
「よしよし、伝言役のクロ様に買うてやるわ」
志摩は読んでいた雑誌を置いて、食品コーナーに行く。
燐はその後ろ姿を見送って、雑誌の中に埋もれるスクエアを手に取った。
今日発売らしい。たぶん、雪男は買ってないだろう。
ふと思いたってそれをレジに持っていった。
二人で、コンビニから出るとクロが待ってましたとばかりに飛びついた。
「しま!おれちゃんとでんごんしたぞ!」
「おおきにークロ。ほい。かにかま」
「かにかま!」
クロの言葉は、燐にしかわからない。志摩はたぶん勘で会話しているのだろう。
携帯電話では言いにくいことも、クロだったら伝えてくれる。
志摩は食べ物をあげる代わりに、燐への伝言を頼んでいた。
その伝言も、なんてことのないものばかり。
今日の夜ちょっとだけ会おう。とか。
クロの言葉は人の目を盗んで待ち合わせする時には、とても都合がよかった。
「じゃあ、俺修行あるから」
「うん、俺も帰って寝るわ」
そうして、コンビニを後にする。
このまま燐は当初の目的通りに、クロと修行へ。
志摩はそのまま、寮に帰って寝る。
燐が修行を始める前のちょっとした時間。
それが、二人の会う時間。
「おまえ、そうまでして会いたい?」
「うん」
「クロに」
「・・・いや、クロにも会いたいねんけどな」
「おまえも物好きだよな」
「奥村君とおると楽しいしな」
「そうか?」
「うん」
「眠くないか?」
「奥村君こそ」
「俺は授業中寝るし」
「俺も帰ったら寝るからええの」
少し会って話すだけ。それだけで楽しい。
だから、真夜中でも待ち合わせして会いに行く。
燐は昼間でもできるのに、なぜ深夜なのかと理由を聞いた。
「だってさ、誰にも見られてないところで逢い引きってなんかええやん?」
それってなんか燃えん?
と言われて、燐も。まぁ内緒だからこそ少し楽しいな、とか思ってしまう。
燐は普段、雪男かシュラに監視されている。
常に行動を供にしているので、この時間は息抜きをしているようなものだ。
流石に四六時中二人と一緒というのは疲れる時もある。
きっと、携帯電話にもなにかしらの細工がしてあるだろう。
こうして会うときは携帯電話は持ってきていない。
以前言われた窮屈だぞ、というシュラの言葉も今では少しわかってきた。
だから、こうして志摩に会っているのかもしれない。
ふいに、志摩に呼ばれた。
なんだよ。と返す前に唇を塞がれる。
「おやすみ。奥村君」
「・・・お前もしかしてこれが目的なんじゃねーの」
「そうとも言う」
触れるだけのキスは何の味もしなかった。
真夜中の待ち合わせの、さよならの合図だ。
「じゃあ、俺あそこの角で曲がるわ」
「じゃ、俺は直進で」
そこまでの距離をいつもよりゆっくりと。
監視のない道を、ちょっとそこまで二人で歩く。
これが俺たちに許されたささやかな戯れ。
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